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957. 自然気候ソリューションズ ~ NCSの理念

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957. 自然気候ソリューションズ ~ NCSの理念

 

2017年ごろ誕生した「自然気候ソリューションズ」(Natural Climate Solutions:NCS)の概念は、その適用により、前例のない速さで加速する気候変動を緩和し、大惨事の阻止に貢献しうるとして注目を集めています。一方で、NCSついては抽象的な理解も多く、しばし他の気候変動対策概念との間で混乱や誤解が生じることから、明確な概念定義が求められています。今日は、NCSをより明確に定義すべく、これまでのNCS関連の議論を精査したレビュー論文を紹介します。

NCSは、気候変動緩和を目的とし、意図的に森林・湿地帯・草地・海洋・農地を保全・回復・改善するための管理を指します。NCSはまた、社会・文化的に責任ある方法での実行を心掛けつつ、食料・繊維供給にあたる負のインパクトや生物多様性喪失への影響を差し引きゼロとする慣行として定義されます。

一方、NCSは特に気候変動緩和を重視していますが、二酸化炭素除去(Carbon dioxide removal/CDR)や自然を基盤とした解決策(Nature based solutions/ NbS)、農業、林業、その他の土地利用(Agriculture, Forestry and Land Use/AFOLU)、等、既存のアプローチと対象および目標が重複するところがあり、本概念の明確な定義が求められています。NCSとCDRの概念の重複に関していえば、NCSのうち、例えば森林再生は実際に二酸化炭素を大気中から除去しますが、泥炭地の農地転換回避は温室効果ガス排出の回避に位置づけられており、NCSとCDRは完全に一致している訳ではありません。気候変動緩和を超えた社会課題をカバーするNbSはNCSよりも広い概念で、NCSはIPCCによるAFORUにおける緩和策とほぼ同義となります。


NCSを実行に移す際、増加する世界人口の食料安全保障を確保しながら、自然環境を包括的に考え、気候緩和も進めなければなりません。一方、気候緩和効果は数値化した明確な測定が可能でありつつ、隠れたコスト・二次、三次影響など生態系に対する長期的な変化を課さないよう配慮する必要があります。さらに、農食料・環境政策において天然資源の管理が過去も現在も恩恵と負担に大きなアンバランスが生じる中、NCSは地域住民や先住民の人権が損なわれないよう、強制移動や土地没収といった不公平な結果に繋がらないよう慎重に策定され実行されなければなりません。

レビュー論文はNCSの原則と活動条件を抽出し、以下に述べる共通する5つの基本理念(foundational principles)とそれを実践する上で15の運営理念(operational principles)をまとめています。


NCSの原則

1.    自然に基づくこと
1.1: NCSは人類による責任あるエコシステムの管理運用の成果です
1.2: NCSはエコシステムを自然状態から乖離させません

2.    持続可能であること
2.1: NCSは生物多様性を支えます
2.2: NCSは食料生産を支えます
2.3: NCSは繊維・木材生産を支えます
2.4: NCSは気候適応を支えます 

3.    気候追加型「climate additional」であること
3.1: NCSは人為的に新たな緩和効果を作り出すことが特徴とされ、常に気候追加型であるべきです。
3.2: NCSは恒久的な緩和策を提供します
3.3: NCSは早急に削減可能な排出を補完するためには使われません

4.    測定可能であること
4.1: NCSは放射強制力の累積効果に関して数量化されます 
4.2: NCSは効果測定について控えめであるべきです
4.3: NCS は想定される気候変動緩和効果を超えた不確実性について通知すべきです
4.4: NCSはダブルカウンティングを行いません

5.    公平であること
5.1: NCSは人権を尊重します
5.2: NCSは先住民の自主的決断を尊重します


持続可能な世界構築・気候緩和への貢献において、NCSの策定・活用への期待が膨らみます。


(参考文献)
Ellis, P.W., Page, A.M., Wood, S. et al. The principles of natural climate solutions. Nat Commun 15, 547 (2024). https://doi.org/10.1038/s41467-023-44425-2


(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)

 

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