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969. 社会・自然システムへの気候変動リスク

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969.  社会・自然システムへの気候変動リスク

 

パリ協定は世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求することを目的としていますが、現状の国が定めた貢献シナリオのもとでは、3℃近く上昇してしまう可能性が指摘されています。同時に、世界人口はまだ増加が予測されています。こうした気候変動・社会経済シナリオのもとでは、3℃まで上昇するか、それとも1.5℃まで抑える努力をするかによって、気候変動の社会・自然システムに対するリスクは大きく異なります。異なるシナリオのもとでのリスクを推計することで、気候変動対策の重要性についての認識も高まるはずです。

イースト・アングリア大学の研究者らは、中国・ブラジル・エジプト・エチオピア・ガーナ・インドの6か国における社会・自然システムへの気候変動リスクを、同一の気候変動・社会経済シナリオのもとで評価しました。これらの研究をとりまとめた論文が、このたび、Climatic Change誌にて公表されました。

論文は、極端な温暖化の回避により見込まれる最大の便益は、農地が極端な干ばつに晒される確率を回避できる可能性にあると指摘します。論文によると、3℃の温暖化が1.5℃に抑えられた場合、エチオピア・中国・ガーナ・インドにおいて、農地における干ばつリスクはそれぞれ61%・43%・18%・21%低くなると予測されました。また、6か国において、人々が干ばつに直面するリスクも、3℃に対し1.5℃温暖化のもとでは20-80% 低いと予想されました。

さらに、論文によると、広範囲にわたって生物種が絶滅する環境下で局所的に植物種が生き残る場所(Climate refugia for plants)は、 1.5℃の温暖化でもガーナ・中国・エチオピアでは確保されますが、3℃の温暖化では大幅に減少すると予測されました。

海面上昇による経済損失は海洋に面した国で大きいと予測される一方、1.5℃の温暖化に抑制することでダメージは緩和される見込みです。

現場レベルでの便益の大きさは、国・ローカルコンテクストごとに異なり、適応策に対する投資の度合いによっても変わってきますが、本研究は、温暖化の抑制が喫緊の課題であることを示しました。

 

(参考文献)
Warren, R., Price, J., Forstenhäusler, N. et al. Risks associated with global warming of 1.5 to 4 °C above pre-industrial levels in human and natural systems in six countries. Climatic Change 177, 48 (2024). https://doi.org/10.1007/s10584-023-03646-6

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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