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542. ヤムイモの生育促進に共生微生物が寄与―生産性向上に向けた新技術の開発を目指す

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542. ヤムイモの生育促進に共生微生物が寄与―生産性向上に向けた新技術の開発を目指す 

ヤムイモは、世界の熱帯・亜熱帯地域で年間約7,500万トンが生産され、そのうちの9割以上が開発途上地域である西アフリカで主食、換金作物として利用されている重要な作物です。日本でも馴染みのあるナガイモやジネンジョなどもその一種ですが、西アフリカで栽培される種や栽培手法は日本とは大きく異なります。開発途上地域の農家にとって化学肥料などの農業資材は高価であり栽培への導入は難しいことから、肥料投入量を抑えてもイモの収量を確保できる技術の開発が求められています。ヤムイモの施肥効果を調べた先行研究では、施肥により収量が増加したという報告がある一方で、化学肥料を投入せずとも収量を得られる品種も存在することが判っています。このような肥料投入がなくとも生育できる品種について、イモの生産性の維持に植物に共生する微生物の関与が考えられ、近年、共生細菌によるヤムイモの生育促進効果、中でも窒素固定に焦点を当てた研究が進められています。

窒素固定は、微生物による植物生育促進作用の一つであり、共生微生物の持つ酵素の働きにより、大気中の窒素が固定され、植物が利用できる窒素化合物へ変換される反応です。窒素固定を行う微生物と共生している植物は、この働きにより、窒素の含有量が少ない土壌においても生育することができます。代表的な窒素固定を行う微生物としてマメ科の根粒菌が挙げられますが、最近の研究ではマメ科以外にもサトウキビやサツマイモなどの作物の生育に共生細菌による窒素固定が寄与していることが報告されています。

ヤムイモにおける生物的窒素固定の可能性を探るため、ヤムイモが吸収した窒素のうち、窒素固定によって大気から吸収した窒素の割合を調べたところ、窒素固定の関与が大きい品種では吸収した窒素量の実に半分近くを大気由来の窒素が占めることが判りました(Takada et al. 2019a)。 また、培養実験や分子生物学的手法を用いた解析により、マメ科の根粒菌を含む多数の窒素固定細菌が、ヤムイモの茎や根、根圏土壌に共生していることが確認され(Takada et al. 2019b、Kihara et al. 2022)、一部の細菌については、ヤムイモの生育と塊茎生産への促進効果があることも明らかとなりました(Liswadiratanakul et al. 2021)。これらの研究の成果は、肥料を与えなくとも栽培可能なヤムイモ品種の選抜や育種素材への利用、微生物を利用した次世代の農業資材の開発などに繋がることが期待されます。化学肥料などの農業資材導入を抑えることによる栽培コスト削減は、農家の負担軽減と持続的な農業経営に結び付くと考えられます。


(参考文献)

Takada et al. (2019a) Nitrogen Fixation in White Yam (Dioscorea rotundata) Using Naturally Abundant 15N. Tropentag 2019 (2019. 9. 18-20, organized by Universities of Kassel and Goettingen, Germany). 
Abstract Kanako Takada (ID: 386) - Tropentag 2019

Takada et al. (2019b) Isolation of Nitrogen-Fixing Bacteria from Water Yam (Dioscorea alata L.). Tropical Agriculture and Development. 63(4): 198-203. https://doi.org/10.11248/jsta.63.198

Kihara et al. (2022) Bacterial community of water yam (Dioscorea alata L.) cv. A-19. Microbes and Environments. 37: ME21062.https://doi.org/10.1264/jsme2.ME21062

Liswadiratanakul et al. (2021) Growth of Water Yam (Dioscorea alata L.) as Affected by Bacterial Inoculation under Growth Chamber Conditions. Tropical Agriculture and Development. 65(1): 41-48.
https://doi.org/10.11248/jsta.65.41

 

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