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541. 西アフリカギニアサバンナの重要作物、ヤムイモの性別とイモ収量の関係を解明 ―効率的な栽培法の開発を目指して―

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541. 西アフリカギニアサバンナの重要作物、ヤムイモの性別とイモ収量の関係を解明 ―効率的な栽培法の開発を目指して―

ヤムイモの生産量は世界で年間およそ7,500万トン、そのうちの9割以上が西アフリカの沿岸部、ギニアサバンナと呼ばれる地域で栽培されており、ヤムイモはこの地域の食料供給量の10-20%(エネルギーベース)を賄っています(FAOSTAT、2022)。ヤムイモは単に食料としてだけではなく、伝統的な儀式や祭りの供え物にも利用されるなど、地域の文化と深く結びついています。現地で広く栽培されているヤムイモはホワイトギニアヤムと呼ばれる種類で、日本で見られる自然薯や長芋の仲間ですが、イモのサイズが大きく、1本あたり大体1~3キログラム、大きいものでは5キログラム以上になることもあります。人口増加に伴い生産量は伸びていますが、面積当たりの収量は半世紀前からほぼ変わっておらず(FAOSTAT、2022)、その一因として栽培に多くの手間と時間が必要なことがあげられます。

国際農研ではヤムの収量改善による栽培の効率化を目標にした研究に取り組んでいます。このなかで、花の性別を制御することによる収量改善の可能性を示唆する成果が得られました。ヤムは一般的に雄花と雌花が別の株に着生する雌雄異株の植物ですが、性別によってどうやらイモ収量に違いがありそうだということが以前から知られていました。しかし、雄株の方が雌株よりも収量が優れていると報告する文献がある一方(Akorodaら、1984)、他の文献ではその逆の報告(Dansiら、1999)があったりと、関係性ははっきりせず、さらにはある栽培環境で雌株であった系統が別の環境では雄株になったりと、花性の表現型が不安定であることもあり、収量と花性の関係は長い間謎のままでした。

国際農研とナイジェリアの熱帯農業研究所(IITA)との共同研究では、200系統以上からなるヤムの集団を4年間にわたって同じ場所、同じ方法で栽培し、のべ2,628個体について花性やその他の形質を丁寧に調査しました。その結果、ある一定の開花条件のもとで雌株のイモ収量が雄株よりも高くなることを明らかにしました。さらに、開花期は種イモの状態に強く影響を受ける事も分かりました。現在、花性を決定する遺伝的要因や環境条件の特定を進めており、これらが明らかになれば、開花期と花性を上手く調節することで収量を改善する新たな栽培法につながるだけでなく、それらの形質を遺伝的に改変した新品種の開発も期待されます。

本成果は、国際誌Frontiers in Plant Scienceに、Variability of flowering sex and its effect on agronomic trait expression in white Guinea yamと題して発表されました。

 

(参考文献)

Akoroda, M. O., Wilson, J. E., and Chheda, H. R. (1984). The association of sexuality with plant traits and tuber yield in white yam. Euphytica 33, 435–442.
10.1007/BF00021142.

Dansi, A., Mignouna, H. D., Zoundjihékpon, J., Sangare, A., Asiedu, R., and Quin, F. M. (1999). Morphological diversity, cultivar groups and possible descent in the cultivated yams (Dioscorea cayenensis/D. rotundata) complex in Benin Republic. Genet. Resour. Crop Evol. 46, 371–388. 
10.1023/A:1008698123887.

FAOSTAT (2022) Statistical database of the Food and Agriculture Organization of the United Nations. 
http://faostat.fao.org/site/339/default.aspx.

 

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