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240. ヤムの遺伝資源の利活用に向けて - 国際農研の取り組み

ヤム(yam)は、日本で栽培されているナガイモ、ヤマノイモ(ジネンジョ;自然薯)、ダイジョ(大薯)などを含むヤマノイモ属(Dioscorea)の作物の総称です。このヤムは、アフリカで主食として広く栽培され、特に西アフリカでは世界のヤム生産量の約95%にあたる年間約5,400万トンが生産されています。ヤムの中でもギニアヤム(D. rotundata)は、西アフリカの食生活に欠かすことのできない重要な主食作物で、伝統的な調理法や加工技術など食文化に裏打ちされた嗜好性(好まれる色や、調理特性、味など)があり、それに基づく品種の使い分けがされています。一方、生産地と消費地が西アフリカに集中していることから、生産性や品質向上に向けた品種改良(育種)に関する研究および技術開発はほとんど進んでいませんでした。

国際農研では、このギニアヤムに着目して、多様な遺伝資源を利活用し、生産性や品質の改良を進めるための研究を行っています。これまで、研究の基盤となる全ゲノム情報の整備、育種に役立つ技術(DNAマーカー)の開発育種や種苗管理のための品種識別技術ツールキットの公開、バイオマスの非破壊推定法等の評価技術の開発、を行ってきました。

そして先日、これらの技術を効果的に利用するための植物材料として選定したギニアヤム多様性研究材料セット(Dioscorea rotundata Diversity Research Set、DrDRS)が、米国作物学会の科学ニュースでとりあげられ、今後のギニアヤムの研究や育種に果たすと期待される役割が広く紹介されました。

DrDRSは、ナイジェリアにある国際熱帯農業研究所 (IITA)が維持管理するギニアヤム遺伝資源447系統から、DNAマーカーを用いて遺伝的な多様性を保持したまま、系統数を102系統に絞り込んだものです。ギニアヤムは、生育期間が長い、植物体サイズが大きい、地下部(イモ)が収穫部位で栄養繁殖である等の特徴から、多数の遺伝資源を用いた有用形質の探索のための栽培試験が他の作物と比べて困難で、これが育種や研究の遅れの一因にもなっていました。しかし、このDrDRSを利用することにより、適切な規模でギニアヤムのもつ多様な形質を効果的に評価するための栽培試験が実施できるようになります。このDrDRSについては、イモ収量や着生イモ数、茎数などの主要な農業形質の情報が公開され、IITAを通じた材料の配布が可能となっています。今後、これまで開発してきたゲノム情報やDNAマーカー、評価手法、そして研究材料としてDrDRSがギニアヤムの育種や研究に広く利用されることで、この作物がもつ幅広い遺伝的多様性を有効に活用した優れた品種の開発が期待されます。

これらの研究は、IITA、岩手生物工学研究センター(IBRC)をはじめとする国内外の機関と共同で実施してきました。これからも国際農研は、これまで積み上げてきた連携と成果を利用し、優良品種や栽培技術の開発を通じて、アフリカで今後予想される人口増加に伴う食料問題の解決や小規模農家の収入増加に貢献していきたいと思います。


参考文献
ヤム遺伝資源多様性解析のためのSSRマーカーの開発、国際農林水産業研究成果情報(平成27年度)、https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2015_b05

ギニアヤムのゲノム情報の解読および性判別マーカーの開発、国際農林水産業研究成果情報(平成29年度)、https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2017_b02

支柱栽培したヤムイモ地上部バイオマスの非破壊推定、国際農林水産業研究成果情報(平成30年度)、https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2018_b01

SSRマーカーを利⽤したホワイトギニアヤム品種識別技術パッケージ、国際農林水産業研究成果情報(令和元年度)、https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2019_b03

Pachakkil B & Yamanaka S et al. (2021) Simple sequence repeat-based mini-core collection for white Guinea yam (Dioscorea rotundata) germplasm. Crop Science, https://doi.org/10.1002/csc2.20431


(文責:熱帯・島嶼研究拠点 山中愼介、生産環境・畜産分野 村中聡)