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1143. JIRCAS作物遺伝資源の取り組み

1143. JIRCAS作物遺伝資源の取り組み
明日、11月22日のJIRCAS国際シンポジウム2024では、地球沸騰化時代におけるレジリエント遺伝資源の果たす役割について議論します。
JIRCAS国際シンポジウム2024
地球沸騰化時代におけるレジリエント遺伝資源の機会と課題
開催日 2024年11月22日(金) 13:30~17:30 (13:00受付開始)
場所 ハイブリッド(国連大学ウ・タント国際会議場およびオンライン)
特設サイト https://www.jircas.go.jp/ja/symposium/2024/e20241122_jircas
国際シンポジウムに寄せて、このたび発行されたJIRCASニュースでは、国際農研作物遺伝資源の取り組みについて特集を組みました。
JIRCAS ニュース No.97
https://www.jircas.go.jp/sites/default/files/publication/jircas_news/ji…
特集 作物遺伝資源の取組
- 遺伝資源多様性とJIRCASの活動
- キヌアの歴史と未来を探る、遺伝資源とゲノム情報を活用した国際共同研究の取り組み
- 野生ダイズの遺伝資源を活用した栽培ダイズ品種の改良
- イネの遺伝資源研究の取り組み
- 多様な野生遺伝資源との遠縁交雑を利用したサトウキビの改良
- 熱帯果樹遺伝資源の多様性の利活用
特集号の中から、巻頭言を紹介いたします。
玉手箱の利用法 JIRCAS国際シンポジウム2024に寄せて
理事 柳原 誠司
JIRCAS 国際シンポジウム 2024 のテーマは「地球沸騰化時代におけるレジリエント遺伝資源の機会と課題」としました。その理由は、現在の食料システムを支える作物が、近年の気温上昇によって変化したと考えられる、降雨あるいは干ばつの時期と強度、頻度(いわゆる気候変動)に対応できず、甚大な被害を受ける機会が増えているためです。さらに、作物は病害や害虫の発生にも晒されており、それらは世界中で報告されているからです。そこで、本誌でも遺伝資源を題材に取り上げました。
地球上の気候や地形は長い年月の中で様々に変化し、植物もその環境ストレスの中で様々に変異し、その時、その場で適応できるものが生き残ってきました。その長い年月の中では植物を摂食する生物、植物を蝕む菌等による生物的なストレスもありました。それでも現在見られる植物が生き残れたのは、それらが持つ遺伝物質に起こった偶然の変化(突然変異)や近縁の植物との交配、菌やウィルスの感染による遺伝物質の取り込みなど、様々なことがあったと考えられています。従って、現在も生き残っている植物には、これまでの環境に適応してきた証が残されていると考えられます。
私たちの祖先は、自然界の植物から一部の食用にできる植物を選抜し、栽培化しました。それが今日の作物の元になっています。しかし、環境や生物からのストレスはそれらの栽培化された作物にも、野に残された植物にも影響を及ぼし続け、突然変異の機会を与えてきました。その結果、作物ではより栽培がし易く、利用価値の高い個体が選ばれ、増殖され、多くの人々に利用されました。さらに、遺伝学や育種学等の学問が発展し、それらに基づく近代的な育種活動によって、様々な環境にそれぞれ適応し、化学肥料や農薬を使用することで高い収量を獲得できる現在の作物が育成されてきました。ところが、冒頭で述べた通り、現在の作物は現在の環境に十分には対応できていません。
長い年月をかけて環境に適応してきた証を遺伝物質に刻んでいる生物はすべての個体が玉手箱に例えられるのではないでしょうか。特に作物では近代の育種技術によって開発されたものではなく、野生種や古くからの在来品種が、現在の、そしてこれからの地球環境に適応する品種の開発に向けた可能性(有用遺伝子)を秘めているはずです。それらが秘めている未知の有用遺伝子を明らかにして、現在の地球環境に適応する作物を開発することは急務です。本誌では国際農研の研究者がイネ、キヌア、サトウキビ、熱帯果樹、ダイズを例に、どのように遺伝資源を活用し、将来に向けてどのようなビジョンで食料システムが直面している課題に取り組んでいるかを紹介しています。興味を持っていただければ幸甚です。
(文責:情報広報室)