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488. 気候変動による動植物の活動周期と季節のミスマッチ

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488. 気候変動による動植物の活動周期と季節のミスマッチ

 

昨日紹介したIPCC報告書は、人為的な活動に起因する気候変動が、自然の気候の変動を超え、陸域・淡水・海岸・海洋エコシステムの構造・種の地理的分布・季節的ライフサイクルのタイミングに負のインパクトをもたらし、自然・人々の適応能力を超えた不可逆的なインパクトをもたらし、食料栄養安全保障を脅かすと指摘しました。気候に強靭な開発(Climate Resilient Development)に向け、生物多様性を保全し、適応・緩和とSDGs達成を両立することが喫緊の課題です。
国連環境計画は、2016年以来、深刻化しつつある環境問題に焦点を当てたFrontiers報告書を発表しています。2022年2月17日に公表されたFrontiers 2022: Noise, Blazes and Mismatchesでは、都市の騒音公害の長期的な精神・健康への負の影響、気候変動によって頻発化する山火事・森林火災、気候変動による動植物の活動周期と季節のミスマッチ、の問題を取り上げています。  

報告書は、「生物季節学:気候変動は自然のリズムをシフトさせている(Phenology: Climate Change Is Shifting the Rhythm of Nature)」章において、 この問題が山から海、極地から赤道地域まで、グローバルで動植物に影響を及ぼしていると指摘しています。日本において1200年の観察の結果、桜の開花が次第に早まり、以前は4月であったものが1900年以降、3月末にシフトしていることにも言及しています。

植物・動物は、気温・日照時間・雨期の到来・その他の物理的な変化をきっかけとして、次の生育ステージに進んでいきます。このため、気候変動による季節のシフトは、動植物のライフサイクルパターンを攪乱することで、農林水産業にも大きな影響を及ぼします。

年間を通して気温・日照時間の偏差が小さい熱帯地域における生物季節学的な反応は、四季がはっきりしている地域に比べ、より複雑です。熱帯の動植物は多様な生物季節学的戦略をとることが知られています。集団の個々の個体が必ずしも同期せず、降雨・干ばつ・水分のアベイラビリティー、日照への曝露といった異なる要因が、次の生育段階への移行を喚起します。気候変動による生物季節学的対応に関する懸念は、各生物体は異なる環境要因に反応するため、あるエコシステムにおける個々の種が同時に同率、言い換えれば同期して同方向にシフトするわけではないということです。フードチェーン内において、動物に比べ植物は生育期間をより素早くシフトさせるかもしれず、これが生態系内での食物連鎖のミスマッチに繋がり、個々の成長・繁殖・生存率に影響を及ぼし、結果としてエコシステム全体の種に反動をもたらします。とりわけ熱帯では、季節的な気温変動が少ない代わりに、降雨や乾季・雨期がはっきりしていることも多く、降雨の頻度・強度の小さな変化が、日照や湿度、気温のわずかな変化とともに、決定的な影響を及ぼします。熱帯エコシステムにおける種の多様性を鑑みて、少しの環境要因変化が種内部・種間で多様かつ複雑な反応をもたらすことが想像されます。

世界的な気温上昇トレンドは、様々な大陸での主食作物の成長過程にも影響を及ぼしています。栽培期間への変化は作物の収量・質に影響を及ぼし、既にオオムギ、トウモロコシ、コメ、ライムギ、ソルガム、大豆、小麦といった主食作物から、綿花、ブドウ、リンゴ・サクランボ・梨・マンゴーといった果樹にも影響を及ぼしています。同時に、播種時期や品種選択は作物の生物季節から直接影響を受けるため、しばし適応戦略としてとられてきました。

気候変動による降雨・降雪パターンの変化はまた、水のアベイラビリティーに影響を与えるとされています。多くの気候変動モデルは、多くの地域で収量減や土壌劣化、病害虫の発生、水不足、といった課題に直面すると予測しています。気候変動への適応には、より持続的な土地管理、灌漑の最適化、よりレジリエントな栽培品種を中心とした育種などの戦略が求められます。

報告書は、生態系の連続性と生物学的多様性の維持、そして温室効果ガス排出の削減の重要性を訴えます。


日本では、2007年以降、35℃を超す日を猛暑日と呼ぶようになり、その頻度が年々高まっています。2007年8月に40℃を超えた関東・東海地域では、イネの高温障害による不稔の発生が報告されています。国際農研では、長年、熱帯・亜熱帯地域における共同研究にもとづく知見・材料を活かし、開花時刻を早める性質、「早朝開花性」の研究を進めています。これは、開花時の高温を避けるため、朝早く涼しい時間帯に花を咲かせようというユニークな発想に基づくものです。早朝開花性に関する研究は、主に沖縄県石垣市にある熱帯・島嶼研究拠点の環境を活かして進められており、国内外の温暖化対策に貢献するものです。早朝開花性が高温不稔を軽減する効果の検証も進んでおり、今後の品種開発が期待されます。

 

(参考文献)
UNEP Frontiers 2022: Noise, Blazes and Mismatches https://www.unep.org/resources/frontiers-2022-noise-blazes-and-mismatch… 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき; 生物資源・利用領域 佐々木 和浩; 熱帯・島嶼研究拠点 石崎 琢磨、齊藤大樹)


 

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