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1212. CO2季節サイクル変動における農業施肥の影響

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1212. CO2季節サイクル変動における農業施肥の影響

 

過去半世紀にわたり、北半球の高緯度地域では CO2 の季節サイクル変動幅の増大が観測されているそうです。ハワイのマウナロアでは過去 50 年間で 15%、季節サイクルがはるかに強いアラスカのポイントバローでは 30% 以上増加していると伝えられています。

これらの増加は、主に気候変動および農業に関連する高緯度生態系の変化に起因すると考えられています。たとえば、高緯度の生態系全体で夏がより暖かくなり、生育期間が長くなると、光合成速度が加速し、北半球の夏に大気中の CO2 の吸収が強まる可能性があります。中緯度での森林再生と高緯度での森林拡大は、同様に、生育期の CO2 の光合成による吸収量を増加させます。また、光合成による CO2 施肥効果も考えられます。これらすべてのメカニズム(生育期の延長、森林拡大、光合成による CO2 の施肥)は、高緯度生態系における植物の生産性増加を示唆しており、これは宇宙からも観測されている緑化傾向と一致しています。しかし、気温の上昇と CO2 濃度の上昇は、CO2 の季節的な振幅増加を完全に説明できるものではないようです。

このたび、Nature Communications誌に公表された論文は、農業による窒素 (N) 施肥が、北半球の陸地大気炭素フラックスの振幅増加 (45%) の最大の寄与要因であることを明らかにしました。研究の結果は、北半球の炭素循環フィードバックにおける農業管理の重要性を示し、将来の炭素循環シミュレーションにおいて、農業による N 施肥を考慮すべきであることを示しています。

農業は、緑の革命に端を発し、過去半世紀にわたって集約化が進み、過去 50 年間の灌漑、肥料、高収量品種の使用増加により、作物の生産量は 3 倍になり、炭素循環に重要な影響を及ぼしています。中緯度地域での農業集約化は、高緯度地域で観測される季節的な CO2 振幅の大幅な増加に寄与している可能性があります。

本研究は、地球システムモデルによりシミュレートされる大気中の CO2 交換の季節的な振幅の変化を調査し、観測記録にわたって陸地と大気間の CO2 交換の変化を促進する農業管理と気候変動の潜在的な役割を調査しました。その結果、工業的な窒素施肥は灌漑や気候変動よりも季節的な CO2 振幅の増加に大きく寄与していることが示唆されました。二酸化炭素施肥と気候も、特に高緯度で季節的な炭素フラックス振幅の変化の重要な要因ですが、工業的な窒素施肥は北半球全体でより大きな影響を及ぼし、一部の地域では現在の平均振幅が 9 ppm CO2 にまで増加し、北半球全体で陸地から大気への炭素フラックスが 45% 増加しています。

本研究の結果は、農業窒素施肥が、現在ほとんどのシミュレーションで見過ごされている季節的な炭素循環フラックスの重要な要素であることを示しています。炭素フラックスの調節における農業窒素施肥の重要な役割を考えると、将来の炭素循環シミュレーションに使用されるモデルには、農業窒素施肥の影響を含めることが推奨されます。

 

(参考文献)

Danica L. Lombardozzi et al, Agricultural fertilization significantly enhances amplitude of land-atmosphere CO2 exchange, Nature Communications (2025). https://www.nature.com/articles/s41467-025-56730-z

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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