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481. 持続可能な稲作:気候条件の変化に生産システムを適応させ、環境への影響を低減せよ

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481. 持続可能な稲作:気候条件の変化に生産システムを適応させ、環境への影響を低減せよ

農業は温室効果ガス(GHG)排出を通じて気候変動の原因となると同時に、多大な影響を受ける経済セクターでもあります。気候変動がかつてないスピードで加速する中、各国・各地域が気候変動への適応・緩和策を講じていく必要があります。アジアおよびアフリカの多くの国々にとって重要な稲作システムに関しては、食料安全保障を維持するために生産性を向上させつつ、気候変動への対応が求められます。 

今回は、先日の「世界マメの日」で紹介したFAO報告書「Crops and climate change impact briefs」の5章「Sustainable rice production(持続可能な稲作)」から、気候変動のリスクにさらされている稲作システムの生産性を向上または維持するために実行可能なベストプラクティスについて紹介します。本章は、政策立案者・研究者・その他持続可能な作物生産の強化支援に取り組むグループや個人に参考となることを意図して作られており、気候条件の変化から生じる生物的・非生物的ストレスの増加に稲作システムを適応させ、GHG排出を削減するのに役立ちます。


1. 気候変動への適応アプローチ
FAOは、気候変動が作物生産に与える影響と作物生産システムが気候変動に与える影響の両方を低減するため、現場での教訓に基づいて、気候変動への適応と緩和のための4ステップアプローチを提案しています。
1)気候リスクの評価
2)農民のニーズの優先順位化
3)農学的な解決策をターゲットに
4)成功した事例をスケールアップ
このアプローチの農学的な解決策は、保全農業、改良した作物・品種の使用、効率的な水管理、総合的害虫管理などの実践から構成されています(表)。

表:気候変動への適応アプローチ

1. 保全農業
  作物生産の多様化、持続可能な機械化。
  ストリップベースの非水かき移植。
  作物の切り株の保持
2. 地域の条件に合った改良した作物・品種の使用
3. 効率的な水管理
水の利用効率の向上、米の集約化システム(SRI)、間断灌漑(AWD)、陸稲
4. 総合的病害虫管理

 

2. 気候変動緩和のためのアプローチ
イネ生産システムにおいては、特に有機物の嫌気性分解によるメタン排出と窒素肥料の施用に伴う亜酸化窒素の排出を削減することが可能です。気候変動緩和策には、メタン排出を削減するための中間期排水や間断灌漑、乾期播種、早生品種の使用、レーザーによる田面均平工法、田植え機の利用、持続可能な機械化、稲わらの適正管理、土壌肥沃度に応じた場所特異的養分管理、バイオ炭やバイオ肥料の利用が含まれます。これらの採用によって、環境と人間の健康にコベネフィットをもたらし、農家と農業コミュニティに大きな経済的利益をもたらす可能性があります。

3. 実現可能な政策環境
政策立案者は、新しい政策を立案する前に国家開発の優先事項を考慮しつつ、現行の農業および非農業の協定や政策がクライメート・スマート農業(CSA)に与える影響を評価すべきです。また、CSAの 3 つの目的(持続的生産、適応、緩和)で生まれるシナジーを活用して、潜在的なトレードオフに対処し、可能であれば回避、削減、補填する必要があります。また、CSA の採用に影響を与える社会経済的、性別的な障壁とインセンティブを理解することは、政策を立案・実施する上で非常に重要です。

CSAは、気候変動に配慮した具体的な実践の規模拡大を伴うため、強い政治的コミットメントと、気候変動、農業開発、食糧安全保障に取り組む様々なセクター間の一貫性と協調が必要となります。そこで、関係するステークホルダーの参加やマルチステークホルダーで形成されるプラットフォームは、実現可能な政策環境を構築するために重要です。以下のイニシアティブとプラットフォームは、コメ生産における持続可能性のための基盤を提供するもので、政府を支援し、公共部門や民間部門と、気候変動に強靭な農法の採用を推進する研究機関や国際組織とを結びつけるものです。


(参考)
Hadi, H.J.B. et al (2022) 4. Sustainable rice production, Adapting production systems to changing climatic conditions and reducing environmental impacts. Crops and climate change impact briefs. FAO. 115-152. https://www.fao.org/3/cb8030en/cb8030en.pdf

(文責:情報広報室 金森 紀仁)


 

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