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320. 食料システムからの温室効果ガス排出

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農業は温室効果ガス排出を通じて気候変動の原因となると同時に、多大な影響を受ける経済セクターでもあります。温室効果ガスを個別にみていくと、出荷前段階での作物・家畜生産は人為的なメタン(CH4)全排出量の50%以上と亜酸化窒素(N2O)全排出量の75%に及ぶとされています。化学肥料の生産、食料輸送、加工、小売り、廃棄物処理など生産前・生産後の活動(pre- and post-production activities)からの排出を合わせると、フードシステム全体としての温室効果ガス排出は、全人為的排出量の20-40%、あるいは3分の1程度と推計されてきました。食の選択・消費パターンの行動変容を通じて需要を削減し、供給サイドへの負担を減らすことで、フードシステム全体の排出を削減することが求められています。


最近Environmental Research Lettersに発表された国連食糧農業機関(FAO)やニューヨーク大学、コーネル大学らの研究者による論文によると、作物・家畜生産活動や土地利用変化からの温室効果ガス排出の数量化はこれまでも試みられてきましたが、フードシステムの様々な段階での排出量の推計は十分でなく、国・地域レベルでの気候変動緩和対策を効果的に実施することを妨げてきました。例えば、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の農業セクターに使われる国ごとの温室効果ガス・インベントリ(National GHG inventory – NGHGI)は出荷前段階での二酸化炭素以外の排出のみをカウントしており、有機土壌や農場でのエネルギー使用、熱帯雨林の森林破壊や泥炭地での火事、といった排出源からの二酸化炭素量の推計を含んでいませんでした。その代わり、NGHGIでは二酸化炭素関連の排出は土地利用・土地利用変化と森林(land use, land use change and forestry - LULUCF)分類でカウントされてきた結果、フードシステム由来の排出を過小評価する傾向がありました。

2021年に予定されている国連食料システムサミットやCOP26(気候変動枠組条約締約国会議)では、各国がフードシステムにおける気候変動緩和策の具体的な戦略に役立てるデータが求められます。論文は、既存データをもとに、IPCCの温室効果ガス・インベントリ(NGHGI)とフードシステム活動を比較可能にする分類整理を行いました。具体的には、1990-2018年の期間における温室効果ガス排出を、農場での出荷前段階 (farm gate)、土地利用(land use change)、生産前・後プロセス(pre- and post-production)、の段階それぞれについて、二酸化炭素・メタン・亜酸化窒素の排出を数量化することを試みました。


著者らの推計によると、2018年、フードシステムからの二酸化炭素換算での温室効果ガス排出は、1990年から8%増加し16ギガトン(16  Gt CO2eq yr−1 metric tons)で、人為的な温室効果ガス排出の約3分の1に相当しました。この排出の4分の3(13 Gt CO2eq yr−1)は出荷前段階と生産前・後プロセス段階に起因し、残りが自然生態系の農地転換による土地利用変化由来としました。開発途上国よりも先進国において生産前・後プロセスの排出が多い傾向があります。土地利用変化は単独で最大の排出源ではありますが、1998年から30%減少しています。他方、国内食料輸送は1990年から80%上昇し、とりわけ途上国で3倍に増えました。またサプライチェーンでの化石燃料由来の排出も1990年から50%増えています。世界人口の増加により、一人当たりの排出は二酸化炭素換算で2.9tから2.2tに減っているものの、先進国での一人当たり排出(3.6t)が途上国の2倍でした。本推計方法に比べ、IPCCの通常の分類では、人為的な温室効果ガス排出によるフードシステム由来の排出が過小評価されることを明らかにし、国レベルでの戦略策定のためにきちんとしたデータ整備の必要性を明らかにしました。


2021年5月12日、農林水産省は食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を策定しました。戦略では、食料・農林水産業の脱炭素化、化学農薬・化学肥料の低減等の環境負荷軽減に取り組むことで、SDGsモデルの達成や、グリーン社会の実現に注力し、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すこととしています。 国際農研も、生産力向上と持続性の両立を可能にするフードシステム変換という地球規模の課題の解決に対し、科学技術を通じて貢献することを目指しています。

参考文献
Francesco N Tubiello et al, Greenhouse gas emissions from food systems: building the evidence base, Environmental Research Letters (2021). DOI: 10.1088/1748-9326/ac018e
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ac018e

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)