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869. 水田からの温室効果ガス排出緩和を再考する

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869. 水田からの温室効果ガス排出緩和を再考する

 

水田からの温室効果ガス(GHG)排出とその緩和に関する研究は1980年代に開始され、多くの知見が集積しています。しかし、ここ20年は、メタ解析による個別知見の統合はあったものの、総合的な総説は著されていませんでした。そこで国際農研は、中国の南京農業大学を中心とする各国の著名な研究者とともに、新たな知見を集めて、水田からのGHG排出とその緩和策を再考し、Nature Reviews Earth & Environment誌において総説を公表しました。以下では、主要な分析結果をご紹介します。

水田は、世界人口の約50%に主食を提供する一方、世界の農耕地からのGHG排出量の約48%を占めています。CO2等価GHGの内訳として、約94%をメタン(CH4)が、残りを一酸化二窒素(N2O)が占めます。世界の水田からのGHG排出量の測定データを解析すると、面積当たりと収量あたりの平均GHG排出量は、それぞれ7870 kg CO2等価 ha−1 y−1と0.9 kg CO2等価 kg−1 y−1になります。多くの実験要因や環境要因の中で、有機物管理(稲わらと堆肥)と水管理の二つは、CH4排出量の最も強力な駆動要因です。一方、N2O排出量の駆動要因は、窒素施肥量です。CH4排出量は、気候変動に伴う大気中CO2濃度上昇によって4~40%増加、気温上昇によって15~23%増加すると予測されます。多収近代品種の育種戦略は、GHG排出緩和を可能にします。新しい品種、水管理、そして稲わら管理(圃場外への持ち出し)は、GHG排出量をそれぞれ24%、44%、46%削減します。しかしどんな緩和策でも、単体での実施の最適化では、GHG排出緩和や収量向上に対して限界があります。そのため、GHG排出緩和のためには、主要な水稲生産地域でのCH4の季節的な排出パターンを考慮した、統合的な管理技術(品種、水、有機物、窒素肥料、耕起)の最適化を優先すべきです。将来の研究では、①統合された技術間での交互作用(例えば、水×稲わら)の評価、②土壌有機炭素とGHG排出量の長期的な変動の追跡、③過去のメタ解析結果の検証と統合、そして④GHG排出量と土壌微生物との機能的な関係性の解明が求められます。

 

国際農研は、世界の水田面積の約90%を占めるアジアモンスーン地域を対象に、水管理を中心とする統合管理技術の開発と社会実装に関する様々な研究活動を通じて、水田からのGHG排出緩和そして気候変動緩和に貢献していきます。

 

(参考文献)
Qian, H., Zhu, X., Huang, S., Linquist, B., Kuzyakov, Y., Wassmann, R., Minamikawa, K., Martinez-Eixarch, M., Yan, X., Zhou, F., Sander, B.O., Zhang, W., Shang, Z., Zou, J., Zheng, X., Li, G., Liu, Z., Wang, S., Ding, Y., van Groenigen, K.J., Jiang, Y. (2023) Greenhouse gas emissions and mitigation in rice agriculture. Nature Reviews Earth & Environment. doi: https://doi.org/10.1038/s43017-023-00482-1

 

(文責:生産環境・畜産領域 南川和則)

 

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