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318. 2021年5月の世界食料価格動向

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318. 2021年5月の世界食料価格動向

2021年6月3日、国連食糧農業機関(FAO) が公表した世界食料価格動向によると、世界的な穀物生産高が史上最高レベルに達する見込みがあるにもかかわらず、2021年5月の世界食料価格は2010年10月以来、10年以上ぶりに急上昇しました。FAOの食料価格指標は、2021年5月に平均127.1ポイントで、4月より4.8%、昨年5月に比べて39.7%高い値をつけました。

この背景には、植物油・砂糖・穀物の国際価格の上昇があります。穀物価格指標は、1年前よりも平均90%近く高騰した国際トウモロコシ価格に押され、4月に比べて6%上昇しました。これは世界的に堅調な需要に対し、ブラジルでの生産低迷を反映したもので、5月末までに米国での生産見込みの改善を受けて価格は落ち着きつつあります。植物油価格は、パーム油・大豆・菜種油の見積価格の上昇を受けて5月に7.8%上昇しました。パーム油価格の上昇は、バイオディーゼル部門をはじめとする堅調な世界需要の見込みに対し、東南アジアでの生産増が予想よりも遅れ気味であることを反映し、大豆油価格も押し上げました。砂糖価格は世界最大の輸出国であるブラジルでの生産減への懸念を反映して4月から6.8%上昇しました。

穀物需給予測によると、2021年の世界穀物生産は、トウモロコシ生産の3.7%増加見通しに押され、昨年から1.9%増と、28.21憶トン(2 821 million tonnes)の史上最高値を達成すると見込まれています。世界の穀物利用は世界人口の動向にそって1.7%増加し28.26憶トン(2 826 million tonnes)でした。食料用穀物の消費量は、年間一人当たりで約150 kgに相当する一方、最近の傾向として、小麦も家畜飼料として利用する傾向が高まっているとのことです。

穀物は、人間の主食のために生産されていると思いがちです。でも、実は、世界で生産される穀物のうち、直接、消費されるのは50%程度で、40%は家畜の飼料として、その他はバイオ燃料そのほかに使用されるようです。 1961年から50年間で、世界で肉類の消費は、一人当たり23㎏から43㎏にほぼ倍増しました。 1961年にもともと88kgと水準が高かった米国は2017年に124kgも消費していますが、同期間に日本での消費量は7.6kgから49kgと6.4倍、中国では3.3㎏から60.6kgと18倍に増加しています。農業生産の拡大は温室効果ガス排出や生物多様性の喪失をもたらす土地利用変化の最大の原因の一つとされており、昨今のフードシステム転換議論において動物性食品から植物性食品の摂取への移行が提案されています。 他方で、生産された作物の殆どが主食として消費される一方、肉類の消費が一人当たり10-20kgに満たない低所得開発途上国も多く、 バランスのとれた栄養を考慮した場合、フードシステム改革は、世界各地の状況に合わせた対策が必要となります。同時に、今後開発途上国を中心に済発展や都市化とともに食の質的・量的需要が変化し、世界の食料需給バランスを左右する大きな要因となっていくことが予測されています。国際農研は、世界の食料栄養安全保障の動向や国際的な議論について、情報提供を行っていきます。

参考文献
FAO. Global food prices rise at rapid pace in May. 03 June 2021, Rome http://www.fao.org/news/story/en/item/1403339/icode/

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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