Pick Up
233. 最近の世界食料価格動向
国連食糧農業機関 (FAO)によると、2021年1月、世界の食料備蓄水準は下落し、FAO食料価格指標は113.3ポイントと、2020年12月から4.3%上昇し、2014年7月以来の高水準となりました。
FAOの穀物価格インデックスは、国際トウモロコシ価格が昨年1月比で42.3%上昇、2020年12月比で11.2%上昇したのを受け、7.1%上昇しました。トウモロコシ価格上昇の背景には、アメリカで予想したよりも低い生産・備蓄水準にとどまったこと、またアルゼンチンで一時的な輸出規制があったことに対し、中国の旺盛な需要によって、世界的な需給が逼迫したことがあげられます。小麦価格も6.8%上昇しましたが、アジアやアフリカでの堅調な需要に対し、2021年3月に小麦輸出税引上げが予定されているロシアからの輸出減少見込みを織り込んだものとなりました。植物油に関しても、大雨と出稼ぎ労働者不足によりインドネシア・マレーシアでのオイルパーム生産量が予想を下回っていること、またアルゼンチンで長引くストライキのために大豆油輸出量が減っていることを受け、植物油価格指標は5.8%上昇し、2012年5月来の高値を付けました。砂糖価格指標も、堅調な輸入需要に対し、EU、ロシア、タイでの作況悪化や、南米での干ばつが影響し、12月から8.1%上昇、原油価格とブラジル通貨レアルの上昇も、国際砂糖価格の上昇を支えています。
FAOによると、今後、世界の穀物備蓄が急激に落ち込むことが予測されています。供給面に関して言えば、2020年、小麦とコメは記録的な生産高を達成しました。2021年に関しては、フランス・インド・ロシア・アメリカなど北半球における小麦の作付面積の拡大によりわずかながら増加が見込まれ、南米トウモロコシ生産はアルゼンチンとブラジルにおいて史上最高まではいかなくとも平均以上の収穫は到達と予想されています。南アフリカや周辺国での生産見通しも悪くありません。他方、今後、世界貿易の取引高が急拡大することで、世界の穀物備蓄が急激に減っていくことが予測されています。この背景には、中国におけるアフリカ豚熱流行の終息を受け、飼料用の穀物利用が増加し在庫の下方修正と輸入急増が観察されること、小麦とコメも2021年に0.7%/1.8%上昇することが予測されています。これらを受け、世界的な備蓄は8億トンと、過去5年間で最低水準となる見込みです。
中国のアメリカからのトウモロコシ購入を反映し、2020・21年の世界穀物貿易は4.65億トンと、前期の最高値から5.7%上昇すると予想されています。コメ貿易に関しては、インドからの輸出拡大を受け、7.9%の拡大が予測されています。
このPick Upコーナーでは、2020年3月に新型コロナウイルス感染症がパンデミックと宣言されて以来、食料輸出国による保護主義によって2008年の食料危機が再来するのではないかという国際議論について何度か取り上げてきました。 コロナ危機に際しては、国際機関が早い段階で、十分な食料備蓄と収穫の期待について逐次情報発信を行ったこともあり、2008年食料危機のような保護主義の連鎖によるパニックは生じていません。 他方、世界の人々の多くが多かれ少なかれ国際貿易に食料安全保障を依存するグローバル社会においては、パンデミックによる移動規制、主要輸出国における極端気象・現象・家畜感染症・労働事情、主要輸入国の社会政治動向、国際原油市場や金融緩和による投資マネーや金利・為替の動向、など、世界食料需給と食料備蓄水準に影響を与えるあらゆる要因を体系的に把握しておく必要があります。 新興国で今後も予測されている食需要の量・質変化は、国際食料市場へのインパクトを通じ、家畜飼料のほぼ100%をはじめとし輸入食料に依存する日本の食料安全保障にも影響を及ぼします。
国際農研は、日本の科学技術外交の一環として、50年以上にわたり、開発途上国における持続的な農業技術開発を現地パートナーと共同研究を行ってきました。国際農研は、世界・日本の食料栄養安全保障に影響を与える動向について、今後も体系的な情報提供を行っています。
参考文献
FAOの以下のサイト
http://www.fao.org/giews/country-analysis/external-assistance/en/
http://www.fao.org/news/story/en/item/1372486/icode/
http://www.fao.org/worldfoodsituation/csdb/en/
http://www.fao.org/documents/card/en/c/cb2578en
(文責:研究戦略室 飯山みゆき)