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288. 貧困削減における資源安全保障の重要性

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2021年4月にNature Sustainability誌で公表された論文は、貧困撲滅における資源安全保障の重要性を論じました。その概要を紹介します。

自然資源に対する人類の需要は、地球の生物学的な回復スピードを次第に上回るようになり、温室効果ガスの大気中における蓄積や、海洋の酸性化、地下水の枯渇、といった環境劣化が加速しています。その結果、バイオマスを再生するエコシステムの能力-環境収容力(biocapacity)が人類の経済とっての物質的な制約になっています。これまでの経済発展理論や実践では、自然資源、とりわけ生物学上の資源の重要性を過小評価してきました。本論文の分析によると、2017年時点で、世界の多くの人々(72%)が、生物学上の資源の供給が需要に満たない国に暮らしています。こうした国の所得水準が低い場合、その経済が世界市場において必要とされる資源を調達する購買力は低くなります。世界には、シンガポールや香港のように資源に恵まれていなくても高い所得と国際市場における購買力によって経済水準を維持している国もいます。しかし途上国では、低所得のため、生物的資源の足りない部分を補完できず、エコロジカルな貧困の罠にとらわれている国も多いです。

人類は現在、地球が再生可能な資源を60%超えて、地球1.6個分の資源を搾取しているといえます。1970年初頭以来、生態系への需要が供給を上回り続ける状況が続いています。  論文の分析では、日本は、生物学上の資源の供給が需要に満たないが高所得であるグループ(文中図2:Biocapacity Deficit/High Income)に属しています。日本は国際貿易に大きく依存しており、とりわけ食料に関してはカロリーベースの約6割を国際貿易に頼り、世界でもトップの食料輸入国となっています。世界のフードシステムが持続的で安定していることが、日本の生命線であり、国際社会と連携し、フードシステムの問題解決に取り組むことは必須です。 国際農研は、日本・世界を食料安全保障をめぐる最新情報を提供していきます。

 

参考文献
Mathis Wackernagel et al. The importance of resource security for poverty eradication, Nature Sustainability (2021). DOI: 10.1038/s41893-021-00708-4
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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