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918. 貧困削減と気候変動

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918. 貧困削減と気候変動

 

2030年までに達成すべき17のSDGs のうち、リストのトップが「貧困をなくそう」、13番目のゴールが「気候変動に具体的な対策を」となっています。貧困削減には消費の拡大が必要となり、気候変動対策と矛盾するかもしれない、という懸念もあります。歴史的に、貧困削減は、人々の生活水準の向上を必要とし、所得向上と消費増大は必然的に温室効果ガス排出の増大を伴ってきました。

11月29日にNature誌で公表された論文は、極度の貧困の撲滅は比較的小さな温室効果ガス排出の増加を伴うのみで、気候変動対応が妨げられることはない、と結論づけています。 

論文著者らは、2050年までに一日当たり2.15ドルの貧困線に相当する極度の貧困を撲滅することは、温室効果ガス排出の4.9%の増加を伴う可能性があるが、技術改善や不平等改善による気候スマートな成長を実現することで、貧困削減に伴う温室効果ガス排出を90%削減することも可能としています。

論文は、経済開発と気候変動対応にはトレードオフがあるものの、最近の研究は新技術や状況変化により、シナジーの方がトレードオフを上回るという過去にはありえなかった新しい可能性の展開を指摘しています。例えば、化石燃料よりも再生可能なエネルギー源のほうが、多くの低・中所得国において増大するエネルギー需要を満たすのにコストパフォーマンスが高いことも多く、過去に比べ将来における経済成長のカーボン負荷がずっと低くなる可能性を示唆しています。とりわけ極度の貧困解消に関しては、気候スマートな農業やより効率的な土地利用、農村における太陽光ミニグリッド(小規模発電網)などが潜在的に効果的です。

論文は、低エネルギー・低カーボン選択肢が従来の技術よりも競争的になれば、初期投資費用の高さが金融面での課題として立ちはだかりつつも、気候変動と開発目標の間のトレードオフも解消されていくことが期待されると述べました。


(参考文献)
Wollburg, P., Hallegatte, S. & Mahler, D.G. Ending extreme poverty has a negligible impact on global greenhouse gas emissions. Nature 623, 982–986 (2023). https://doi.org/10.1038/s41586-023-06679-0 


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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