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48. 新型コロナウイルス・パンデミック -COVID-19による貧困削減トレンドの逆転

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2020年5月23日、エコノミスト誌は、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) により、近年の世界貧困削減の進歩が逆転し、貧困状態にある人々の数が急増しかねない状況を論じました。1日1.9ドル以下で暮らす絶対的貧困状態にある人々の数は1990年の20億人・世界人口の36%から、昨年までに6.3憶人・8%へと減少しましたが、現在、1998年来初めて貧困人口が急激に増加しています。世界銀行の推計によると、ロックダウンや世界経済の破綻によって、少なくとも4900万人が絶対的貧困に陥るとしましたが、これは4月時点の予測であり、最近の数字はより暗い未来を示唆しています。ある推計では、世界的に一人当たり所得の20%下落が少なくとも数か月間続き、絶対的貧困にある人々の数は南米人口に相当する4.2憶人に増加しかねないとしました。先進国でのロックダウンでは、リモートワークが可能であったり、税金による失業・休業補償もありますが、貧困国では事情が異なります。仕事に行かなければ収入はなく、収入の減少は食料不足に直結します。世界食糧計画(WFP)は、2020年末までに急性の飢餓が倍増すると予測しています。

世界銀行がサブサハラ・アフリカ48か国中45か国のデータの包括的分析に基づき公表したノートによると(How Much Will Poverty Rise in Sub-Saharan Africa in 2020?)、パンデミックによって2020年一人当たりGDP成長率は大幅に下落し、貧困を悪化すると予測されています。危機以前には一人当たりGDP成長率は1.7%とされていましたが、パンデミックによって5~7%下落し、ベースラインで3.1%、最悪のシナリオで5.5%下落すると見られています。サブサハラ・アフリカにおいて、一日当たり1.9ドルで定義された絶対的貧困層が追加的に2600万~5800万人増加することが想定され、貧困率は2%上昇して2015年の水準に戻り、過去5年間の貧困削減の進展を払拭しかねません。新たな貧困人口の半分は、コンゴ民主共和国・エチオピア・ケニア・ナイジェリア・南アフリカの5か国に集中し、とくにナイジェリアでは690万人が新たに貧困に陥るとされます。サオトメプリンシペ・ジンバブウェ・ニジェール・コンゴ共和国・シエラレオネ・ボツワナは、最大の貧困層増加率を経験すると見られています。

ケニアでは、当初2020年に経済成長を見込んでいましたが、ロックダウンとグローバルサプライチェーン寸断により観光業・茶・花卉果樹輸出など外貨獲得部門が打撃を受け、成長率は大幅に落ち込むと見られています。2020年5月23日、ケニア大統領は537憶ケニアシリング(2020年5月時点1ケニアシリング=約1円)の刺激策を発表しました。その内容は、公共政策や教育(ICT・デジタルラーニング含む)・保健医療部門における雇用創出や投資、中小企業に対する免税措置などの流動性支援措置、観光業従事者や設備維持更新への支援を含みます。農業についても、20万の小規模農家を対象としたeバウチャーを通じた(肥料・種子等など)投入財への30憶円支援、果樹・花き部門生産者に国際市場アクセスを支援するために15億円に加え、森林破壊や気候変動インパクト緩和や水資源保全を目的とした乾燥・半乾燥地域における水管理設備更新や、洪水管理、ケニア緑化キャンペーン等にも、明示的な予算配分を約束しました。

ちなみに、2020年3月、オランダのオークション閉鎖で花き市場における需要が消滅し、壊滅的な打撃を受けていたケニア花卉産業ですが(Pick Up 15)、欧州でのロックダウン緩和に伴い徐々に輸出再開に向けて動きつつあるようです(Bloomberg May 22, 2020)。輸出は60%の稼働率まで戻しつつも、また航空機における十分なスペースの確保も難しく(Pick UP 41)、キロあたり貨物費は昨年の1.5ドルに対し3.3ドルと高止まりするものの、輸出業者が望む毎週4000トン出荷に対し、現在週あたり1600トンを輸送しているそうです。ケニアは昨年、約10億ドル相当の花卉を輸出し、オランダのオークションが売り上げの半分を占めていました。オランダでオークションを運営する業者は、5月11日週の収入は昨年比で6.9%減であったといい、市場がそろそろ平常化する兆しが見られるとのことです。

 

参考文献

Bloomberg Kenya Plans $503 Million Economic Stimulus to Battle Virus By David Herbling May 20, 2020 https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-05-19/kenya-plans-503-million-economic-stimulus-to-battle-virus 

Bloomberg. Economics: Lockdown Easing in Europe Revives Kenyan Flower Industry By David Herbling May 22, 2020. https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-05-22/lockdown-easing-in-europe-revives-kenyan-flower-industry

The Economist. The great reversal Covid-19 is undoing years of progress in curbing global poverty The number of very poor people was steadily falling; now it is rising fast, May 23, 2020.   https://www.economist.com/international/2020/05/23/covid-19-is-undoing-years-of-progress-in-curbing-global-poverty?utm_campaign=coronavirus-special-edition&utm_medium=newsletter&utm_source=salesforce-marketing-cloud&utm_term=2020-05-23&utm_content=article-link-2

Montes, Jose; Silwal, Ani; Newhouse, David; Chen, Frances; Swindle, Rachel; Tian, Siwei. 2020. How Much Will Poverty Rise in Sub-Saharan Africa in 2020?. World Bank, Washington, DC. https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/33765

STAR. CUSHION FROM COVID-19 EFFECTS Inside state's Sh53.7 billion economic stimulus package. May 23, 2020. https://www.the-star.co.ke/news/2020-05-23-inside-states-sh537-billion-economic-stimulus-package/

Pick UP 15. 新型コロナウイルス・パンデミック ―世界貿易減少と商品作物輸出依存途上国への影響 https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200412

Pick Up 41. 新型コロナウイルス・パンデミック ― ロックダウン下の青果物グローバル・サプライ・チェーン https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200517

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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