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237. 寒波と極渦 (polar vortex)
2020年は2016年と並ぶ暑い年であったことが確定していますが、 2020年末から2021年現在、北半球は数度の寒波に襲われています。2021年2月中旬現在、アメリカの中央部は猛烈な寒波に襲われ、テキサスでは慣れない寒さにインフラがパンクし、多くの世帯が停電の中で極寒を耐える事態を迫られているそうです。
米国での報道などによると、これは極渦の崩れ(polar vortex disruptions)によるものとされています。通常、極渦はジェットストリームによって北極海上空にとどまりますが、ジェットストリームが部分的に折れ曲がり、寒気が低緯度にずり落ちてくる現象だとのことです。 1月に成層圏突然昇温(sudden stratospheric warming:SSW)が生じたことを機に、ジェットストリームが弱まり、北極からの寒気がアメリカ、欧州、アジアに流れ込みやすくなっているようです。 極渦や成層圏突然昇温には様々な要因がかかわっているとのことで、こうした現象が、近年の北極海氷の融解にどの程度起因するのかについては、まだ明らかではないそうです。 しかし、気候変動によって、極端現象の頻度が増加することが懸念される中、気候変動と気象の関係に関する複雑なメカニズムの科学的解明も進んでいくものと思われます。
2020年2月14日、ビル・ゲイツ氏による『How to Avoid a Climate Disaster(気候災害を避ける方法)』が出版され、気候変動による極端気象の頻発化に警鐘をならし、温室効果ガス排出をゼロにするためのイノベーションの必要性について論じています。 農業については、第6章(How We Grow Things)において気候変動緩和策として畜産からのメタン削減と窒素肥料有効活用の必要性、第9章(Adapting to a Warmer World)においては、開発途上国の小規模農民にとっての適応策の重要性に言及しています。
国際農研は、国際ネットワークや開発途上国のパートナーとともに、農業分野における温室効果ガス排出を抑制する技術の開発を積極的に取り組んでいます。さらに、国際農研発の生物的硝化抑制(BNI)技術は、政府が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の有望イノベーションにも選定されました。国際農研はまた、開発途上国の農業を対象に農産物の安定生産技術の開発を行っています。 今後、開発途上国および先進国にかかわらず、極端気象の可能性を織り込み、レジリエント(頑強)な農業・食料システムの構築が肝要となっていくことが予想されます。
(文責:研究戦略室 飯山みゆき・金森紀仁)