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228. サブサハラアフリカでのインデックス保険によるリスク管理

 

農業分野における天候インデックス保険では、例えば作期中の降雨量が通常の収穫に必要とされる降雨量を下回った場合に保険料が支払われます。2015-2016年にアフリカ南東部の国、マラウィ―で発生した干ばつによる作物被害では、政府による備えがされていたので、当初はさほど大きな問題になるとは考えられていませんでした。しかし、モデルによる被害規模の推定に失敗したため、数百万という農民への支払いが滞ってしまいました。被害の影響が全国に行き渡る前に、迅速な支払いが必要だったのです。このような問題を解決する一手として、近年目覚ましく進歩してきている作物モデルやリモートセンシング技術を使ったインデックス保険の改良が提案されています。2021年1月、Natural Reviews Earth & Environment誌にて、農業リスク・マネジメントにおいてリモートセンシング・作物モデル・経済学を統合する可能性について、経済学・地球システム科学のチームが論じた論文が公表されました。  本記事は、論文解説ブログにもとづいて論文の内容を紹介します。

“農業保険に注がれる熱意は、新たな保険商品で農家を深刻なリスクに晒すのではなく、確実に農家の益・助となるために対等でしっかりとした根拠と結び付かなければなりません”、と筆頭著者で社会学者のElinor Benami准教授は述べています。また、本報告では、天候インデックス保険プログラムが農家やコミュニテーに与える保険の精度を改善することについても触れています。

著者らの引用によると、ケニアではインデックス保険プログラムに加入した40-80%の農民は未加入者に比べ“痛みを伴う対処策”、即ち食事を抜いたり、子供の通学を中断したり、なけなしの蓄財を売ったりすることが減った、と答えたとのことです。収入の減少や私財の切り崩しは、不可逆的な結果をもたらしている、と共著者の一人でカリフォルニア大学デイビス校の農業経済学者であるMichael Carterは述べています。“一度、収入の減少や私財の切り崩しを経験した農家は貧困から抜け出せません。保険によっていったん失った収入や私財を取り戻すことで、負のスパイラルを食い止めることができ、これによって、貧困を根本から変えることができるのです。”

サブサハラアフリカの各国政府や保険会社は、既に数百万もの農家をインデックス保険プログラムに加入させ、気象の影響による被害を見積もりやすい家畜生産に関して数々の成功事例を出しています。著者らは、衛星画像の活用はカバーエリアを広げることに役立ち、より多くの農地を対象とすることが可能であると述べています。その一方で、保険の精度改善は大きな課題でもあります。

“我々は、保険業界に対して、保険加入者数ではなく、いかに多くの被災者の助けになったか、という点を重視するようアドバイスしています。”、とBenami氏は述べています。
そのため、最低品質基準、すなわち、患者に対する医師の誓約のような概念についての議論が行われています。低品質の保険では、加入農家が未加入農家よりもみじめな状況に追いやられてしまうため、農家にとって無害であるということが最低品質基準の概念です。

“監督機関が保険に求める条件としては、支払いに見合った価値、即ち保険料に見合った十分なリスク緩和と私財の保護です”、“保険会社はどこも、事業推進にとっての必要な規制を満たしつつも、コスト削減と加入者増加を目指たがる”、とBenami氏は述べています。

天候インデックス保険の品質、信頼性、価格やアクセスの面での加入のしやすさを改善するために、著者らは5つの具体的なレコメンデーションを出しています。


1.    高解像度の空間データと環境条件に関する新たなデータ等の活用、たとえば、複数のセンサーや作物モデルからのデータを結合して、実際の現場と観測結果がマッチするよう改善する。
2.    作物モデルやリモートセンシングによる新たなデータセット、またはドローンやスマフォからのデータの取り込みによって、被害の評価精度を改善する。
3.    現場の実測値を保険プログラムの有用性や品質の強化に役立てる。実測値は、出されたインデックスが農家の実状や環境データ、保険対象地の作目や収量にどれだけ沿っているかを測る基準である。
4.    地理条件、微気象、作物栽培条件など、特定の景観における生産性に影響を及ぼす要因を反映することは保険対象地の最適化に役立つ。広域の行政区分内では、環境的要因や社会的慣習など多様である。
5.    契約は、様々なニーズとインデックスの失敗についての不可避性を考慮して設計することができる。農家のニーズは一様ではなく、手堅い保険の契約では農家が年間にどれくらいのリスク管理を必要とするかなど事細かく反映しているわけではない。また、インデックスのエラーにより見過ごされる保険料未払いを最小化するために監査機能を備えることができる。

これらのレコメンデーションには、研究者と実務者による学際的な取り組みが重要であるとAni Ghoshは述べています。例えば、基礎研究機関による経済、リモセン、作物モデルの発展は、CGIARが小規模農家向けに進めるインデックス保険プログラムのインパクト最大化のための対象設定、優先順位付け、スケールアウトなどによる介入への補完が可能です。全体として、リスク管理をうまく行うための評価や設計を行うことは、技術的にも社会的にも決して容易なことではありません。インデックス保険ですべての農業関連リスクを解決することはできませんが、うまくいった時に甚大で広範囲に及ぶショックに対して適切な形の保証を提供することは可能です。

 

国際農研も国際稲研究所(IRRI)と日本政府の支援を受け、季節予報を利用した天水稲作農家のための意思決定支援システムWeRise (Weather rice nutrient integrated decision support system)を共同開発しています。  WeRiseは、季節予報と作物生育モデルを組み合わせることで、栽培地域と品種に応じて播種や移植ならびに施肥の最適時期の予測を可能とし、天水稲作農家の気候変動への適応力を高めるためのツールとして期待されています。国際農研及び国際稲研究所との共同研究では、イネの生育や気象に関するデータベースを構築し、現地の天水田での実証試験を行うとともに、実際に現場でWeRiseを利用するため、農業普及員の研修も実施しています。

また、極端現象による災害被害に対し、土木的な防災対策を講じることが困難な開発途上地域において、国際農研の気候変動対応プロジェクトは、農家経営を災害から守る農作物天候インデックス保険の設計等の適応策を検討するとともに、適応策が被害の軽減に及ぼす効果を調査しています。

 

参考文献

Elinor Benami et al. Uniting remote sensing, crop modeling and economics for agricultural risk management, Nature Reviews Earth & Environment (2021). DOI: 10.1038/s43017-020-00122-y

Advances in modeling and sensors can help farmers and insurers manage risk. January 21, 2021. https://phys.org/news/2021-01-advances-sensors-farmers.html

(文責: 生産環境・畜産領域 林慶一、小川諭志)