Pick Up

178. 作物収量と窒素肥料汚染のトレードオフに関する国レベルの政策・制度・規制の影響

関連プログラム
情報収集分析

 

2020年11月10日にオンラインで開催されたJIRCAS創立50周年記念シンポジウムにおいては、ポスト・コロナ時代の農業開発の課題として、地球の持続性境界内で質の高い食料栄養供給を目指すためのグレート・フードトランスフォーメーションの緊急性が議論されました。その一環として、作物の収量維持向上に欠かせない窒素肥料の効率性改善技術の開発と普及が挙げられます。過剰利用されている地域における利用効率性を高めて環境汚染を最小化すると同時に、過少利用されている地域においても現地環境と作物に適応して肥料利用効率を高める技術の重要性が議論されました。

2020年11月、Nature Food誌で公表された論文は、収量の改善と環境インパクト最小化の課題は、国固有の状況にも影響されるとしました。例えば、国境を接する国において、環境条件は同じであるにもかかわらず、政策・制度・規制など国固有の変数が、作物作付体系・肥料使用や技術採用に影響を与え、収量と環境的インパクトも規定することがあります。衛星写真で一目瞭然であるように、乾燥地域における国境の一方側でのみ、緑の青々とした畑地が拡がるという景観は、農業生産の集約度の違い、そして農民がどのような作物をどのような技術を適用して育てるかという意思決定に影響を与える政策・制度・規制の違いの重要性を示しています。論文は、計量経済モデルを用い、世界の289の国境沿いの農業地帯について、国の存在がイールドギャップ*と環境汚染に与える影響の因果関係について分析を行いました。

分析の結果、国境は、窒素肥料に伴う水質汚染に35%、イールドギャップの差異に1-1.5%と、前者により大きな影響を及ぼすことがわかりました。このことは、窒素の過剰利用を行っている国では、収量への影響を殆ど与えずに肥料に対する補助金を環境対応に回すことで肥料過剰利用による汚染を削減し、逆にイールドギャップが大きく収量低迷に悩む開発途上国地域では肥料の効率的利用への支援策が有効である可能性を意味します。

*イールドギャップ - 最適な品種・栽培管理法を採択した場合を想定した収量、に対し、農家環境などで実際に観察される収量、との差・乖離を指し、農業技術・栽培方法の改良を通じて収量向上改善の余地があることを意味する。

 

参考文献

David Wuepper et al. Countries influence the trade-off between crop yields and nitrogen pollution, Nature Food (2020). DOI: 10.1038/s43016-020-00185-6

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

関連するページ