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1282. 気候リスクが作物収量変動に与える影響

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1282. 気候リスクが作物収量変動に与える影響

 

平均気温よりも高い気温は、生産システムがこれらのストレスの影響を緩和できない場合、高温で乾燥した状況を悪化させることで、平均的な作物収量の減少だけでなく、作物収量の変動の激化につながります。

農業市場情報システム(Agricultural Market Information System AMIS)は、気候リスクが作物収量変動に与える影響のモニタリングの重要性に関しての記事を発表しました。

2000年から2020年にかけて、世界の多くの地域でトウモロコシの生育期は、例年よりも暑く乾燥した天候に見舞われました。収量変動に対する気候リスクを推定するには、(1)トウモロコシ収量が既に不安定な地域、(2)過去20年間で気候がより温暖化・乾燥化している地域、(3)気候の傾向がトウモロコシ収量の安定性に最も悪影響を及ぼしている地域、を監視することが重要です。

これまでの年間収量変動を調査することは、トウモロコシ生産システムが最も不安定な地域を理解するための有用な出発点となります。1980年から2020年にかけて、東ヨーロッパ、インド、南アフリカの一部地域では、トウモロコシの収量が最も不安定で、収量の変動係数が20%を超えていました。西ヨーロッパと南アメリカでは、収量は比較的安定しており、変動係数は約15%でした。トウモロコシの収量が最も安定していたのは中国とアメリカ合衆国で、変動係数は約10%でした。

観測された収量の変動は、植物の遺伝学、気象、そして灌漑や肥料などの生産システムへの投入要因の複合的な影響を反映しています。これらの要因のうち、真に外生的な影響は気象のみです。

21世紀に入り、世界の多くの地域でトウモロコシの生育期の気候は、より高温かつより乾燥しています。これらの傾向は、2023年に世界のトウモロコシ生産量の20%以上を占めたアルゼンチン、ブラジル、ヨーロッパの一部地域で最も顕著でした。一方、2023年の生産量の50%以上を占めた中国と米国では、温暖化はそれほど顕著ではなく、乾燥もほとんど見られません。この理由については議論の余地がありますが、ほとんどの気候モデルは、中国と米国の主要トウモロコシ生産地域では、今後温暖化は続くものの、乾燥は比較的少ないと予測しています。しかしながら、中国と米国における収穫量の変動は、地球規模の収穫量の変動に甚大な影響を及ぼすため、綿密にモニタリングすることが必要です。

収穫量が最も変動している地域の多くは、生育期の気候が乾燥と温暖化の影響を最も受けやすい地域です。東ヨーロッパの一部の地域は、特に猛暑と乾燥化の影響を受けやすく、気象パターンの変化により、2000年から2020年の間にヨーロッパの平均収穫量は1%減少したとみられ、アフリカ、アジア、ラテンアメリカでの影響よりも大きいインパクトを受けました。気温上昇の影響は平均収穫量の減少だけにとどまりません。多くの湿潤気候では、十分な水分が確保できた年には気温上昇がトウモロコシの収穫量にわずかな影響しか与えませんでしたが、それ以外の年には干ばつの影響を大きく悪化させました。気温上昇は、不利な年をさらに悪化させることで、収穫量の年ごとの変動性を高めると予想されます。実際、2000年から2020年にかけての気温上昇により、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、北米ではトウモロコシの収穫量の変動が約50%増加しました。一方、アジアでは、気温上昇の影響による2000年から2020年にかけての変動の増加は比較的緩やかでした。

観測されている気温上昇の影響は、ごく最近になって現れたものです。1980年から2000年にかけて、世界の多くの地域におけるトウモロコシの収量変動は、アフリカを除き、気象パターンの変化に大きく影響されませんでした。過去25年間にトウモロコシの収量変動が大きくなったことは、今後数十年間でトウモロコシの収量変動が大きくなる前兆であると考えられます。干ばつがより高温になり、より甚大な被害をもたらすにつれて、トウモロコシ生産の年ごとの変動性は高まる可能性があります。変動性がなぜ、どこで、どの程度の速さで増加しているのかを理解することは、育種、政策、技術への投資分野を見極めるうえで役立つでしょう。


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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