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1440. 将来の干ばつが主要作物と世界の食料不安に与える影響

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1440. 将来の干ばつが主要作物と世界の食料不安に与える影響

 

2050年までに世界人口は約98億人に達し、食料需要は30〜62%増加すると予測されています。その一方で、干ばつの深刻化が、世界の食料安全保障に大きな影を落としています。Nature Communicationsに掲載された最新研究は、将来の干ばつが主要作物と世界の食料不安に与える影響を、これまでにない方法で定量化しました。

これまでの多くの研究は、過去の干ばつデータと収量の「統計的関係」に基づいており、植え付け時期の変化、施肥量の増加、灌漑の拡大、CO₂濃度上昇の影響といった要因を十分に扱えてきませんでした。今回の研究の革新的な点は、作物の生理学的プロセスを再現するモデルを使い、将来の気候条件下での純粋な干ばつ影響を評価した点にあります。本研究における「干ばつによる生産損失」とは、他のすべての要因を一定に保ったうえで、干ばつありシナリオと干ばつなしシナリオの間に生じる生産量の差を指し、ここでいう損失は、現在と将来の生産量の変化を意味するものではありません。

研究チームは、トウモロコシ、大豆、米、小麦、という、世界のカロリー供給の約3分の2を占める「ビッグ4」作物を対象に解析しました。2020年から2050年の間に、干ばつは主要4大主食作物の世界平均総生産量を約0.2%から最大で約2%近く減少させる可能性があることが示唆されました。個別の作物(トウモロコシ、米、大豆、小麦)についてみると、2020~2050年の間に干ばつによる世界平均の生産損失は0~3.6%の範囲で推定されました。

これらは一見すると小さい数字に見えますが、今世紀半ばにおける主要4大主食作物の干ばつによる最大生産損失を各国レベルで平均すると、世界平均でみた損失よりも、干ばつありシナリオと干ばつなしシナリオの差ははるかに大きいことが示されました。62か国で主要4作物の最大生産損失が10%を超えると予測され、24か国では最大損失が20%を超えると見込まれました。これらの地域は、主要4作物の主な生産地と一致しており、最悪のシナリオでは一部地域で干ばつによる生産損失が40~50%を超える可能性も示唆されています。

干ばつの影響は作物の種類によっても異なり、大豆が最も脆弱であることが示され、トウモロコシ、米、小麦についても、国別の最大生産損失はそれぞれ最大76.0%、67.3%、64.4%に達する可能性があると推定されています。4作物の中で最も干ばつ耐性が高かったのは米でしたが、湛水栽培が一般的で、灌漑インフラが整備された地域で栽培されていることが理由となっており、水使用量を抑制する新たな栽培法への移行によって、この構造も変わる可能性があります。

研究チームは、また、作物生産の減少=食料危機では必ずしもないとし、生産減少率、 一人当たりGDP、人口増加率、貿易依存度、食料価格インフレ、政情不安、を組み合わせた食料不安指数(food insecurity index)を開発し、生産ショックに対する回復力も評価しました。算出された食料不安指数によると、アフリカの大部分、東ヨーロッパ、東南アジア、中南米、さらにロシアやオーストラリアの多くの国々が、将来の干ばつの影響に対して中程度から高い脆弱性を持つと特定されました。世界的な食料不安に最も脆弱な国々は、一般に高い干ばつ指数(drought impact index)に加えて、低~中程度のGDP、高い人口増加予測、高いインフレ率、そして高い政情不安を抱えていました。オーストラリアのように社会経済的脆弱性は低いものの、干ばつの影響が深刻な国では、干ばつの影響だけでも食料不安指数において中程度から高リスクの区分に入る可能性があります。

地域別シナリオでは、南米の大豆・トウモロコシ主要輸出国の減産が世界市場価格を押し上げる、南部アフリカでは南アフリカでの減産が周辺の輸出依存国に打撃を与える、世界有数の穀物輸出国ロシア西部でのコムギ減産が中東・アフリカ諸国へ連鎖的影響を及ぼす、そして世界有数のコメ輸出国タイでの減産予測がアフリカの輸入国に影響を与える、といった可能性が指摘されました。

この研究のメッセージは、干ばつのインパクトの世界平均値は小さく見えたとしても、本当のリスクは、グローバルに結びついた食料市場で起こる「連鎖反応」にあることを示した点です。気候変動の影響は、単なる収量の問題ではなく、経済、政治、そして社会安定にまで波及します。研究は、食料安全保障の未来が、気候適応と国際協調にかかっていることを強調し、灌漑インフラへの投資・干ばつ耐性品種の導入・貿易パートナーの多様化・政治・経済の安定化を訴えました。

 

(参考文献)
Kraklow, V.A., Paff, K., Comeau, D. et al. Impact of drought on global food security by 2050. Nat Commun 17, 1099 (2026). https://doi.org/10.1038/s41467-025-67862-7

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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