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713. 主食作物の生産性向上が農家の栄養改善に与える影響

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713. 主食作物の生産性向上が農家の栄養改善に与える影響

サブサハラ・アフリカは世界で最も飢餓人口の割合が高く、その背景には、作物の生産性が極めて低いことが挙げられます。作物の生産性が向上すると農家のカロリー源や収入源が増えることが予測されますが、主食作物を生産し消費するだけではビタミンAなどの微量栄養素を十分に供給できません。主食作物の生産性向上が、どのように農家の栄養改善につながるのかを微量栄養素も含めて定量的に示す研究が求められています。

今回は、マダガスカルの主食である水稲の生産性向上が、農家の消費行動や購買行動の変化を介して、カロリーのみならず、ビタミンAなどの微量栄養素の供給量向上、すなわち、量と質の両面で農家の栄養改善に有効であることを明らかにした国際農研の成果について紹介します。

マダガスカルは、一人当たりのコメ消費量が日本の2倍以上であり、国民の半数以上が稲作に従事する稲作大国です。同時に、国民の2人に1人が栄養不足などの深刻な問題を抱えています。国際農研と東京大学およびマダガスカル国立栄養局の共同研究グループは、 農業生産が農家の所得や栄養に及ぼす影響を評価するため、マダガスカルの農村地域ヴァキナカラチャ県600家計を対象に生産や消費などのモニタリングを実施し、計量経済学の手法を用いて分析しました。

結果、水稲収量の増加によって、対象地域で不足するエネルギー・亜鉛・鉄分・ビタミンAの供給量が増加することがわかりました。また、水稲収量が増えることで、コメ消費量だけではなく、コメを販売することで得られる現金収入も増えました。そして、現金収入が増えたことで、市場での野菜、果物、肉・魚の購入量が増加しました。さらに、住居から主要道路までの距離が近い(市場アクセスが良い)ことがコメ販売を促進しており、市場が果たす役割の重要性が示唆されました。

水稲の生産性向上が自家消費量を増加させるだけでなく、市場経路を通じて栄養価の高い食品を購入することにより、質と量の両面で農家の栄養改善に有効であることが明らかになりました。さらに、国際農研は、マダガスカルの水稲生産を向上させるための効率的な施肥技術や新品種の開発を実現しており、水稲の生産性向上に資するこれらの技術介入によって、消費や市場を通じた購買行動の多様化が生じ、貧困農家の栄養改善、ひいてはSDGsの目標2「飢餓をゼロに」に貢献することが期待されます 。


(参考文献)

Nikiema, R.A., Shiratori, S., Rafalimanantsoa, J., Ozaki, R., and Sakurai, T. How are higher rice yields associated with dietary outcomes of smallholder farm households of Madagascar?. Food Security. (2023). https://doi.org/10.1007/s12571-022-01333-5


(関連するページ)

プレスリリース コメ増収はマダガスカル農家の栄養改善に有効―主食作物の生産性向上によりアフリカの栄養問題解決に期待―
https://www.jircas.go.jp/ja/release/2022/press202219

プレスリリース マダガスカルでイネの新品種をリリース― 養分欠乏下で高い生産性を示すイネ品種「FyVary」―
https://www.jircas.go.jp/ja/release/2021/press202117

プレスリリース 移植苗のリン浸漬処理がイネの増収と冷害回避につながることを実証― 肥料投入の限られたアフリカの安定的なイネ生産に貢献 ―
https://www.jircas.go.jp/ja/release/2020/press202001


(文責:情報広報室 白鳥佐紀子、社会科学領域 尾崎諒介、生産環境・畜産領域 辻本泰弘)

 

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