Pick Up

174. JIRCAS創立50周年記念国際シンポジウム2020 開催報告

関連プログラム
情報収集分析

 

2020年11月10日(火) 、JIRCAS創立50周年記念国際シンポジウム 2020 「ポスト・コロナ時代のグローバル・フードシステムをとりまく地球規模課題の展開と農林水産業研究における国際連携の役割」がオンラインにて開催されました。以下、簡単に報告させていただきます。

https://www.jircas.go.jp/ja/symposium/2020/e20201110 

 

まず、国際農研の岩永勝理事長が開会の辞を述べました。過去50年間のグローバル化によって複雑化し、リスク波及のチャネルにもなりうるグローバル・フードシステムのもとで、国際社会は気候変動やパンデミックの影響に晒されるようになり、コロナ禍は格差と貧困を拡大させています。他方、気候変動の影響などの農林水産業の課題は地域ごとに異なり、農林水産業技術は地域固有のニーズに見合ったものでなければなりません。岩永理事長は、国際農研の50年の歴史に基づく強みは現地・現場における共同研究を通じた技術開発にあり、ポスト・コロナ時代には、「より良い復興」のために有効な国際連携を模索する必要性を強調しました。

 

シンポジウムへは、農林水産省を代表して菱沼 義久・農林水産技術会議事務局長、国際パートナーを代表してCGIAR システム機構Kundhavi Kadiresan グローバル・エンゲージメント&イノベーション代表取締役が、1970年以降の地球規模課題と農業技術研究アジェンダの変遷を振り返り、今後の国際農研の活躍へ期待を込めたお祝いのメッセージをお寄せくださいました。また、農研機構を代表して松田 敦郎 理事 (国際連携、知財・国際標準化、広報担当)ほか、アジア・アフリカ・ラテンアメリカのカウンターパートを代表して、中国農科院(CAAS) Sun Tan 副院長、タイ国 農業協同組合省 農業局 Pichet Wiriyapaha 局長、ブルキナファソ環境農業研究所(INERA) Mamoudou Traoré自然資源管理・生産システム部部長 ・所長 代理、マダガスカル国立農村開発応用研究センター(FOFIFA) Lala Razafinjara所長 、パラグアイ (CETAPAR) 日系セタパール財団 (CETAPAR) 中村憲児理事長が祝辞をくださり、さらなる連携強化への期待を述べていただきました。

 

シンポジウムでは、3件の講演が発表されました。まず、国際農研の小山修理事は、時代ごとに変容する重点的な地球規模課題の解決に向けて農林水産業技術の開発にかかわってきた国際農研の半世紀に及ぶ経験をもとに、今後も世界食料安全保障やSDGs達成に向け、国際連携を通じた活動を続けていく意思を表明しました。2つ目の基調講演では、国連食糧農業機関(FAO) Josef Schmidhuber経済社会開発領域貿易市場部副部長が、COVID-19のリスク波及チャネルとしての国際貿易動向について、最新データも交え、食料貿易自身の強靭性に対し、観光・出稼ぎ送金等への依存度の高い食料輸入国の脆弱性など、コロナ禍のインパクトを多角的に分析されました。国際農研の飯山みゆき研究戦略室長は、コロナ以前から顕在化していたグローバル・フードシステムの構造的な持続性課題について解説し、今後の重点分野として、小規模農民の直面する生産性低迷を解決するための新技術の活用・学際的研究の必要性・研究機関と開発機関の連携強化等を提言しました。

 

パネルセッションでは、国際農研の齋藤昌義 企画連携部長が座長をつとめ、国際農研の岩永勝理事長、国際協力機構(JICA) 佐藤正 上級審議役 、世界蔬菜センター (World Vegetable Center) Marco Wopereis所長、 国際熱帯農業研究所(IITA) Nteranya Sanginga所長がパネリストとして「国際連携の在り方」について議論しました。佐藤JICA上級審議役は、JICAによる開発途上国でのCOVID-19影響調査からコロナ禍での農民の窮状が伝えられており、食料安全保障の確保として種子や肥料等の供与を通じた支援を実施していること、より長期的にはインフラ投資も含めた農村部門の強靭性強化につとめること、より効果的な開発インパクトを目指す上で研究機関との連携を強めていくことを提言されました。Wopereis 世界蔬菜センター所長は、栄養面で非常に重要な役割を果たす野菜では種子生産などで民間部門が重要なセクターではありながらも、現地ニーズに応じた戦略を展開していく上で、いまだに公的投資が重要な分野であり、CGIARや国際・国立研究機関との連携を強化していく必要性を訴えました。Sanginga IITA所長は、農村では農民の高齢化が進む一方、学位を持つ若者に雇用がない中、食料輸入への依存度がどんどん高まっていくというアフリカ農業開発の直面するジレンマに言及し、日本のヤム加工企業訪問の経験を受け、民間・ビジネスと連携した農業戦略の必要性を強調しました。国際農研の岩永理事長は、これまで国際的な農業研究が国際的に取引される作物を重視してきたのに対し、今後は各地域において栄養や経済的・市場価値的な重要性を持つローカル・クロップへの研究へ重点を置く提案に加え、農業研究の意義と重要性についての情報発信の役割を強調しました。

 

最後に、国際農研の小山理事は、50年前の創立以来、食料・環境問題という地球規模課題に取り組み続けた国際農研のミッションに言及し、SDGs達成のための国際連携をさらに強化していく必要性について述べました。小山理事は、シンポ参加者・長年のパートナーへの謝辞を述べつつ、コロナ収束後に現場で再会することに期待を寄せました。

 

(シンポ当日いただいたQ&Aにつきましても、近日中にお答えしたいと思います)

 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

関連するページ