国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

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20. 新型コロナウイルス・パンデミック ― 世界経済危機と気候変動対策

2020-04-21

2020年4月20日、米ニューヨーク商業取引所で、原油価格の指標となるWTI (West Texas Intermediate) 先物価格が一時1バレル = マイナス40ドルを超えて下落、1983年の上場以来史上初めてマイナス価格で取引を終えました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19) の世界的な感染拡大(パンデミック)を抑え込む対策で世界経済が停滞し、エネルギー需要の急減で原油供給が過剰になっており、原油貯蔵スペースが限界に達しつつあることを受け、売り手が買い手にお金を払って引き取ってもらう状況を反映しているとされます。

2020年1月末以降、世界を吹き荒れるコロナ禍は、経済活動の停止を通じて、温室効果ガス排出の一時的な減少をもたらしています。NASAの大気汚染監視衛星は、中国・武漢周辺で2020年1月23日に都市封鎖(ロックダウン)が開始された前後を比較し、自動車や工場からの排出ガス等に起因し、環境汚染の原因である二酸化窒素 (NO2) が大幅に減少したことを捉えました (図1)。ちなみにNO2は大気に1日程度のみ留まる汚染物質とされ、排出源の近くで感知されるため、異なるセクターによる経済活動の集約度を測る尺度として使われるそうです(Japan Times) 。世界中から環境汚染の改善が伝えられており、ベネチアでは観光客の減少により運河がきれいになり、世界最悪レベルの大気汚染に悩むインド都市部ではヒマラヤ山脈が数十年ぶりに眺望できるようになったと報道されています。

この1年間を振り返ると、2019年は気候変動対策に世界的な意識と注目が高まった年でした。国連機関は、世界平均気温を1.5℃の上昇に抑制することを目指すパリ協定(Paris Agreement)目標の達成には、2020年から2030年の間、温室効果ガス排出を毎年7.6%減らさなければならず、まさに今年2020年から早急に対応をとらなければ気候変動の影響を抑制する機会を逃しかねないと警鐘を鳴らしました(UNEP)。COVID-19パンデミックによる経済活動の停止は、皮肉にも「地球に優しく」、専門家は、2020年の二酸化炭素排出減幅はマイナス5%と、ソ連崩壊の際にも経験しなかった第二次世界大戦以降最大の落ち込みを記録することもあり得ると想定しています (World Economic Forum, April 4, 2020) 。

しかし、気候学者らは、新型コロナ対応の移動規制による排出削減効果は長続きせず、化石燃料使用の10%下落が少なくとも1年程度継続しなければ、大気中の二酸化炭素水準への影響は軽微であるとしています (Scripps Institution of Oceanography)。2007-08年の世界金融危機の経験では、温室効果ガス排出が1.4%減少した後、5.1%上昇に転じたといいます。今回のコロナ危機においても、中国では工場稼働停止とロックダウンに伴い温室効果ガス排出は25%程下落しましたが、経済活動の再開とともに排出量は通常レベルに戻りつつあるようです (World Economic Forum April 4, 2020) 。

将来取り返しのつかない気候変動リスクを回避するには、コロナ危機の有無にかかわらず、土地利用やエネルギー部門を含む抜本的な社会経済構造の転換が不可欠となります(The Science Advisory Group of the UN Climate Action Summit)。気候変動の専門家らは、コロナ危機への対応から、気候危機を回避するための教訓を得ることができると述べています。2020年4月現在、日本でも緊急事態宣言が発出され、社会距離戦略がとられるにあたり、コロナ流行曲線という言葉をニュースでも耳にします。 公衆衛生専門家によると、流行のピークが高いと感染は早く収束しますが、その過程で生じうる医療崩壊と社会機能の破綻を回避するため、感染ピークを低くして流行曲線を平坦化する(flattening the curve)ことが推奨されています。学者らは、気候変動がもたらす異常気象をウイルス感染とみなし、速やかに経済の脱炭素化を通じて社会の強靭性向上を目指すことで、世界の平均気温の上昇抑制に成功し、気候変動による甚大な被害を回避しうると提言しています(図2: Hayes, March 31, 2020; World Economic Forum April 17, 2020)。

1929年世界大恐慌に匹敵しうる今回の世界経済危機に対して、今後、先進国における大規模な景気浮揚策と途上国経済への支援は不可避と目されています。COVID-19はパンデミックに国境はなく、対応の遅れは命取りであること、科学的知識に基づいた行動と団結が極めて重要であることを証明しました。気候危機についても同様のことが言えます。専門家らは、この危機を気候変動対策のチャンスと捉え、現状・規定路線(business-as-usual) にかわり、国際協調のもとで、真に「地球に優しく」、強靭で持続的な経済システムのためのインフラ構築に投資を行っていくべきであるとしています (World Economic Forum April 17, 2020) 。

COVID-19危機は、グローバルな経済活動と気候変動対応のトレードオフ関係を明らかにしましたが、長期的な視点からは、気候変動対応の先延ばしで生じうる莫大な損失を放置せず、早急な対応が持続的な未来への近道となります。幸いにも、気候変動への強靭性改善に関する投資の利益率は一般に高く、将来の損失回避・イノベーションを通じた経済利益の創出・社会環境的な便益の提供、という、「トリプル・ディビデンド(3重の配当) 」をもたらしうると期待されています (Global Commission on Adaptation) 。人間活動を原因とする温室効果ガス排出の23%を占める農林業その他土地利用分野においても、フード・サプライチェーンの強靭性強化に努めつつ、農業資源の持続的・安定的活用による持続的農業集約化技術への投資を通じ、食料・栄養安全保障の達成を目指していく必要があります。

 

参考文献

David J. Hayes. Flatten the (Climate) Curve. NYU School of Law.  March 31, 2020.  https://www.law.nyu.edu/centers/state-impact/press-publications/expert-commentary/flatten-climate-curve  Accessed on April 20, 2020.

Global Commission on Adaptation. 2019. ADAPT NOW: THE URGENCY OF ACTION. https://gca.org/global-commission-on-adaptation/report (参考) https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20190911

Japan Times. Air quality improving in quarantined countries. March 22, 2020.  https://www.japantimes.co.jp/news/2020/03/22/world/science-health-world/air-quality-coronavirus-quarantined-countries/#.Xp6VrcgzY2w 

NASA Airborne Nitrogen Dioxide Plummets Over China.  https://earthobservatory.nasa.gov/images/146362/airborne-nitrogen-dioxide-plummets-over-china  Accessed on April 20, 2020.

Scripps Institution of Oceanography.  What does it take for the coronavirus (or other major economic events) to affect global carbon dioxide readings?, March 11, 2020. https://scripps.ucsd.edu/programs/keelingcurve/2020/03/11/what-does-it-take-for-the-coronavirus-or-other-major-economic-events-to-affect-global-carbon-dioxide-readings/

The Science Advisory Group of the UN Climate Action Summit 2019. United In Science - High-level synthesis report of latest climate science information. https://public.wmo.int/en/resources/united_in_science (参考)https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20191003 

UNEP. (2019) Emissions Gap Report 2019 https://www.unenvironment.org/resources/emissions-gap-report-2019   (参考)https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20191128_0 

World Economic Forum. Coronavirus could trigger biggest fall in carbon emissions since World War Two - but any decline could be short-lived. April 4, 2020.  https://www.weforum.org/agenda/2020/04/coronavirus-could-trigger-the-biggest-fall-in-carbon-emissions-since-world-war-two-according-to-experts-d9b4629e47/  Accessed on April 20, 2020. 

World Economic Forum. Flattening the climate curve in the post-COVID world. April 17, 2020. https://www.weforum.org/agenda/2020/04/flattening-the-climate-curve-in-the-post-covid-world/ Accessed on April 18, 2020.

Pick Up 6. 気候変動と世界食料生産危機 - 持続的資源・環境管理技術への期待https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200325

 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

Fig. 1. Atmospheric NO2 around Wuhan, China before and after the lockdown in late January 2020 (NASA)

Fig. 2. Flattening the climate curve (Hayes March 31 2020; World Economic Forum April 17 2020)