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17. 新型コロナウィルス・パンデミック ― 石油需要・原油価格の動向と再エネ・バイオエネルギーへの影響

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情報収集分析

太陽光発電や風力発電の急速なコスト低下により電力セクターを中心として再生可能エネルギーの転換が世界的に加速化する中、2019年には再生可能エネルギー電力が電力全体の追加発電設備容量の72%を占め、導入済み発電設備容量の34.7%にまで拡大しました(2020年4月6日付けIRENAプレスリリース)。しかしながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による世界的な移動の制限、経済活動の制約により、サプライチェーンの寸断や関連設備の工場閉鎖等が既に起こっており、2020年への成長見通しに影を投げかけています。

とりわけ、移動や旅行の制限、経済活動の低迷に伴う石油需要の減退と原油価格の下落は顕著です。4月15日に国際エネルギー機関(IEA)から発表されたOil Market Reportによれば、4月の石油需要は対前年で日量29百万バレルの減少となり、1995年以前の水準まで落ち込む見通しです。需要・供給の両面での石油ショックにより、3月の原油先物価格は4割の下落を記録しました(Oil Market Report – April 2020, IEA)。

原油価格の下落により、再生可能エネルギーへの投資が抑制される可能性を指摘する論調もみられますが、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、発電量に占める石油火力発電の割合は4%にまで低下しており(図1)、石油価格の低下が再エネ電力に与える影響は限定的であり、石油価格のボラティリティの拡大は投資の不透明感を増幅させ、むしろ再エネ電力へのシフトにつながると述べています(IRENAプレスリリース)。

一方、エネルギー消費全体の9割以上を石油が占める運輸セクターにおいては(図2)、石油価格の下落による市場全体への影響が特に甚大であり、再エネ利用に関しては、バイオ燃料への短期的な影響が顕在化しています。自動車燃料の消費に伴うCO2の発生を抑制するため、バイオエタノール及びバイオディーゼル等のバイオ燃料の混合政策を導入している国は約70カ国に及びますが、バイオ燃料はガソリンやディーゼル等の石油燃料と混合して利用されるため、交通需要の急速な減退や石油価格の低迷により、バイオ燃料精製プラントが生産休止に追い込まれる事例が多く報告されています。一部のバイオエタノールプラントでは、消毒用アルコールの生産に切り替えてラインの操業を維持しているケースもみられます。世界最大のサトウキビ生産量を誇り、販売される新車の9割以上がフレックス燃料車(どのような混合比において走行ができるように設計された車両)となっているブラジルでは、マーケット動向により砂糖の生産とバイオエタノールの生産を柔軟に切り替える体制が確立され、近年はバイオエタノールへの志向により、バイオエタノールの消費量が自動車用燃料の約50%近くに達していましたが、コロナウイルスの影響が顕在化して以降、砂糖生産へのスイッチが加速しています(Nasdaq March 23, 2020)。

また、CO2排出量が全体の5%以上を占める航空セクターにおいては、2016年、国際民間航空機関(ICAO: International Civil Aviation Organization)が2019/2020年の排出量をベースラインとして上限(キャップ)を設け、2021年以降に発生する排出増加分については、クレジットの取引により相殺するカーボンオフセットプログラム(CORSIA; Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)を導入することに合意しました。排出量を削減するため、航空各社によるバイオジェット燃料の導入に向けた取組が徐々に広がりを見せつつありますが、航空需要の増加見通しを踏まえると、CORSIAの運用を適切に行っていくことも避けて通れない課題であり、本年3月のICAO理事会において、植林活動等オフセットの対象となる6つのプログラムが合意されました。このような中、航空業界は人々の移動の制限による急激な需要減退に見舞われることとなり、2019/2020年のベースラインがコロナウイルスの影響により極端に落ち込むため、今後、回復基調に戻った場合、CORSIAを通じたクレジット購入を想定以上に行う必要が生じる可能性があります(BLOG April 7, 2020)。現時点において、経営への打撃が大きい航空会社の救済策が中心的な議論の対象ですが、既に合意されている航空セクターの脱炭素化の取組は、引き続き確実に推進していくことが求められます。

各国において経済刺激策や経済不況の救済策が検討されていますが、長期的な視点に基づくエネルギー転換の必要性や、気候変動目標の達成に向けた政策の必要性については、コロナウイルスの危機の前後で何ら変わるものではなく、むしろ今こそ社会経済の脱炭素化や持続可能な開発の目標の推進に向けた道筋を示していくことが求められています。(IRENA March 14, 2020.)。

国際農研は、バイオエネルギーに関する技術開発協力の推進及び情報共有を図ることを目的として、国際再生可能エネルギー機関・革新的技術センター(IRENA/IITC、ドイツ)と共同し、情報収集・分析・提供活動を行っています。

 

参考文献

BLOG. Changes in course needed for UN scheme to address aviation emissions. April 7, 2020. https://blog.oeko.de/changes-in-course-needed-for-un-scheme-to-address-aviation-emissions-kursaenderungen-im-un-programm-zur-reduzierung-von-flugverkehrsemissionen-erforderlich-deu-eng/

IRENA. IRENA Director-General Statement on Oil Prices and Impact on the Renewable Energy Sector. March 14, 2020. https://www.irena.org/newsroom/pressreleases/2020/Mar/IRENA-Director-General-Statement-on-oil-prices-and-impact-on-the-renewable-energy-sector

Nasdaq. Falling fuel prices, weak currency drive Brazil switch from ethanol to sugar. Reuters. March 23, 2020. https://www.nasdaq.com/articles/falling-fuel-prices-weak-currency-drive-brazil-switch-from-ethanol-to-sugar-2020-03-23

2020年3月14日付IRENAプレスリリース、IRENA Director-General Statement on Oil Prices and Impact on the Renewable Energy Sector

(文責:研究戦略室 増山寿政)

Fig. 1. Power generation sources

Fig. 2. Energy consumption by sector

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