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1509. 途上国の経済発展が農地拡大を抑制?―生物多様性保全と気候変動対策の新たな視点
1509. 途上国の経済発展が農地拡大を抑制?―生物多様性保全と気候変動対策の新たな視点
農地拡大は、世界的な生物多様性損失の主要因の一つであり、温室効果ガス排出や森林減少とも深く関係しています。農地と牧草地を合わせると、氷雪を除く陸地の約4割近くを占めており、人口増加や食料需要の拡大に伴う今後のさらなる農地開発が懸念されています。
本稿で紹介する研究(Polasky et al., 2026)では、人口、食料需要、作物収量、農産物貿易の長期的変化を踏まえ、2050年および2100年までの世界の農地需要が推計されています。著者らによれば、現状の延長線上(Business as Usual)では、高所得国の農地面積は概ね横ばいまたは減少する一方、低・中所得国では農地面積が大幅に拡大し、世界全体では2100年までに約12億7千万haの農地増加が見込まれるとされています。
同研究が特に注目しているのは、途上国の経済発展が農地需要に与える影響です。一般に、所得の向上は教育機会の拡大や女性の社会進出、家族計画へのアクセス向上などを通じて人口増加率の低下と関連することが知られています。また、技術革新や農業研究開発投資により、作物収量の向上も期待されます。著者らは、これらの要因をモデルに組み込み、所得向上に伴う一人当たり食料需要の増加を考慮しても、総合的には農地拡大圧力を低減し得る可能性を示しています。
その結果、途上国における経済発展を加速させるシナリオでは、2100年までに世界の農地需要を現在より約5億1千万ha削減できる可能性があると推計されています。この削減効果は、高所得国における食生活の改善や食品ロス削減、バイオ燃料需要の抑制などの対策を単独で実施した場合の効果を上回ると報告されています。
さらに同研究では、途上国の経済発展に加え、高所得国における過剰需要の抑制や農産物貿易の効率化を組み合わせた「Equitable Development」シナリオにおいて、世界の農地面積を大幅に縮小できる可能性が示されています。著者らは、このような取り組みが、生物多様性保全、気候変動緩和、食料安全保障の改善を同時に達成し得ると指摘しています。
一方で、同研究は、農産物貿易への過度な依存が紛争や輸出規制などによる供給途絶リスクを高める可能性や、農業集約化に伴う環境負荷の増加といった課題についても言及しています。そのため、著者らは、農業研究開発投資の拡充、持続可能な農業技術の普及、生物多様性保全政策を組み合わせた包括的な対応の重要性を強調しています。
以上を踏まえると、本研究は「経済発展か環境保全か」という従来の二項対立を再考し、途上国の持続的な経済発展が長期的には自然環境保全や気候変動対策にも資する可能性を示した点で重要な示唆を与えるものといえます。特に、グローバルサウスにおける農業研究、技術開発、人材育成への投資が、食料安全保障と生物多様性保全の両立に向けて重要な役割を果たす可能性が示唆されます。
(参考文献)
Polasky, S., Nelson, E., Tilman, D. et al. *Reversing the great degradation of nature by reducing factors related to cropland expansion*. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 123(21), e2506601123 (2026). [https://doi.org/10.1073/pnas.2506601123](https://doi.org/10.1073/pnas.2506601123)
(文責:戦略統括室 飯山みゆき)