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1480. 温暖化に強い植物はどのように生まれたのか

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1480.温暖化に強い植物はどのように生まれたのか

 

最近Plants, People, Planet誌で公表された論文によると、暑さに強い植物のしくみは突然できたのではなく、もともと持っていた遺伝子の変化が少しずつ積み重なって生まれた可能性があることがわかりました。つまり、植物は長い時間をかけて「進化の準備」をしていたと考えられるというのです。

生物の特徴の中には、複数の要素が組み合わさってできている“複雑な性質”があり、光合成の仕組みもその一つです。こうした性質は、いきなり完成するのではなく、小さな変化が積み重なり、段階的に形づくられていくと考えられています。その代表例として取り上げられているのが、「C4光合成」です。これは、暑くて光が強い環境でも効率よく二酸化炭素を利用できる仕組みで、通常の光合成(C3)よりも高温環境に適しています。ただし、この仕組みは多くの遺伝子や細胞の働きがうまく連携して初めて成立する、非常に複雑なものです。

興味深いのは、このC4光合成が植物の中で何度も独立に進化しているにもかかわらず、特定のグループに偏っている点です。イネ科植物は大きく「BOP系統」と「PACMAD系統」に分かれますが、C4光合成はPACMAD系統でしか見つかっていません。このことから、PACMAD系統の祖先には、C4光合成へ進化しやすい何らかの下地があった可能性が考えられてきました。

論文では、これまで詳しい遺伝情報がなかったアリスティドイデア(Aristidoideae species)というグループの植物のゲノムを新たに解読し、他のイネ科植物と比較することで、その「下地」が何だったのかを調べています。解析の結果、PACMAD系統の共通祖先の段階で、すでに多くの遺伝子の変化が起きていたことがわかりました。具体的には、遺伝子が増えたり、新しく生まれたり、一部が失われたりといった「遺伝子の入れ替わり」が起きており、合計で900以上の変化が確認されています。こうした変化の中には、C4光合成そのものに直接関わるものは多くありませんでしたが、関連しそうな機能を持つ遺伝子がいくつも含まれていました。たとえば、物質を細胞内外に運ぶ働きを持つ遺伝子、炭素の代謝に関わる遺伝子、細胞をダメージから守る仕組みに関わる遺伝子、そして遺伝子の働きを調整する遺伝子などです。また、C4光合成で重要な役割を持つ酵素の一つである「β-カーボニックアンヒドラーゼ」については、PACMAD系統の祖先で遺伝子が重複していたことが確認されました。ただし、このように明確にC4に関係する遺伝子の変化は限られており、多くは間接的に関係する可能性があるものでした。

重要なのは、これらの遺伝子の変化が、C4光合成が実際に現れるよりも前に起きていたという点です。つまり、これらはC4光合成を直接生み出した原因というよりも、その後の進化を可能にする「準備段階」としての役割を持っていたと考えられます。一方で、遺伝子が特別に大量に増えたわけではなく、また遺伝子の働きが大きく分業化した証拠も限定的でした。このことから、C4光合成の進化は、特定の大きな変化によって一気に起きたのではなく、もともと存在していた遺伝的な多様性が徐々に活用されて成立した可能性が高いとされています。

この研究の結論として、C4光合成のような複雑な仕組みは、特定の遺伝子の出現だけで説明できるものではなく、過去に積み重なった多くの遺伝的変化によって「起こりやすくなっていた」結果として生まれたと考えられます。そして、そのような条件がそろっていたのが、PACMAD系統だったということです。このように論文は、進化が偶然の一回限りの出来事ではなく、過去の遺伝的背景に大きく左右されるプロセスであることを示しました。

(参考文献)
Lara Pereira et al, Gene turnover in the common ancestor of all C4grasses, Plants, People, Planet (2026). https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ppp3.70206


(文責:戦略統括室 飯山みゆき)
 

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