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1459. チョークポイント:戦争の世界食料安全保障への脅威
1459. チョークポイント:戦争の世界食料安全保障への脅威
チョークポイント(Chokipoint)とは、必ずしも物理的な「狭さ」だけでなく、流れや進行を制限する重要な箇所を指す言葉として使われています。
交通・物流・地理的文脈
- 「ボトルネック」:通行量が集中して渋滞や停滞が起きる箇所
- 「狭路」「交通の要所」:通り抜けが制限される地理的な地点
ビジネス・経済・ネットワーク文脈
- 「ボトルネック」:処理能力や供給が制限される要因
- 「支配点」「制御点」:重要な部分で影響力が大きい箇所
軍事・戦略的文脈「要衝」「戦略的要所」:敵の進行や輸送を妨げやすい地点
米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所 (Center for Strategic and International Studies, CSIS)が、イランとの戦争によるホルムズ海峡のチョークポイントが、世界の食料安全保障にもたらす影響について解説しました。
2月28日の米イスラエルによるイランへの共同攻撃、そしてそれに続くイランによる中東各地への攻撃を受け、ホルムズ海峡は事実上閉鎖され、世界の石油、天然ガス、肥料貿易における重要なチョークポイントが圧迫されています。肥料価格は高騰し、春の作付けシーズンを前に、北半球の農家は短期的な供給不安への懸念から、大きな不安に陥っています。この紛争は世界の肥料市場と農業市場にどのような影響を与え、そしてどの国が最も大きな影響を受けるのでしょうか?今日のエネルギー・肥料市場のショックは長期的な食料安全保障危機につながるのでしょうか?
Q1:この紛争は世界の肥料市場にどのような影響を与えるのでしょうか?
A1:肥料として使用される主要な3つの栄養素、窒素、リン、カリウムのうち、窒素が最も多く消費されており、2023年には世界の肥料総使用量の約59%を占め、リン酸は21%、カリウムは20%でした。窒素は、タンパク質合成や光合成効率(ひいては作物の収量)など、生育サイクルのあらゆる段階で不可欠な要素です。世界の窒素肥料使用量の約45%は、小麦、米、トウモロコシなどの主要穀物作物の栽培に用いられており、これらの作物は世界のカロリー摂取量の40%以上を供給しています。中東地域は、合成窒素肥料の主要原料である液化天然ガス(LNG)と、最も一般的な窒素肥料である尿素やアンモニアを含む肥料そのものの主要輸出国です。ホルムズ海峡は、世界のLNG輸出量の20%、世界の肥料輸出量の20~30%(尿素輸出量の35%)を支えています。また、世界のリン酸肥料貿易の約20%は、ホルムズ海峡の混乱、あるいはより広範な地域紛争の影響を受ける国々から供給されています。さらに、石油・ガス精製の副産物である硫黄は、リン酸肥料の生産に不可欠で、世界の硫黄貿易の約45%が、この紛争による混乱の影響を受けています。同時に、他の主要な肥料供給国は、中東からの供給減少を補うために生産量を増やすことができていません。ロシアは世界の肥料貿易の約5分の1、世界の窒素肥料輸出の14%を占めていますが、国内輸出制限と、ウクライナによる生産工場への攻撃に直面しており、企業は国内需要への対応に注力しているとのことです。中国は、国内市場における肥料価格の安定を確保するため、2021年春にリン酸肥料の輸出制限を課しました。この制限措置は今年8月に期限切れとなりますが、最近の市場の混乱を受けて、中国は国内市場を保護するために輸出制限を延長する可能性もあります。
Q2:世界の肥料・食料市場は、この紛争にどのように反応していますか?
A2:海峡の封鎖は、世界の肥料市場にとって「最悪のシナリオ」とみなされています。紛争勃発直後から肥料価格は上昇し、3月11日までに、世界の尿素価格は、戦争直前の価格と比較して、1トン当たり465.5ドルから585ドルへと約26%上昇しました。混乱が長期化すれば、投入コストの上昇、収穫量の減少、そして最終的には食料価格の高騰という形で、世界的に影響が波及する可能性があります。アジア市場は特に大きな影響を受けやすい状況にあります。2024年には、ホルムズ海峡を通過する液化天然ガス(LNG)の83%がアジア市場向けでした。特にインドは、LNG価格の高騰による生産コストの上昇を受け、肥料メーカーによる尿素生産量削減の差し迫った圧力が、6月にはじまるモンスーンシーズン、その数か月後の肥料需要ピーク、というタイミングの前に発生しています。こうした圧力は地域全体に及んでおり、東南アジアの粒状尿素価格は紛争勃発以来40%以上も高騰しています。世界最大の肥料輸入国であるブラジル当局は、短期的な混乱には十分対応できる体制が整っていると述べているものの、主要供給地域である中東地域での生産や輸送の長期的な混乱はブラジル農家のコスト上昇につながる可能性があります。サハラ以南アフリカはもともと肥料の使用量が少ないですが、多くのアフリカの生産者は価格上昇を吸収するだけの資金力がなく、使用量を削減する可能性があり、地域市場に依存する農家の食料不安は深刻化する懸念があります。農産物価格への影響はまだ明らかになっていませんが、化石燃料価格が上昇すると、大豆やトウモロコシなどの農産物を原料とする再生可能燃料の魅力が高まり、戦争開始から最初の1週間で、大豆油先物価格は2年半ぶりの高値を記録しました。同様の理由から、ブラジルの製糖工場はサトウキビ由来のエタノールを優先的に生産すると予想され、世界の砂糖価格の上昇につながる可能性があります。
Q3:米国農業は肥料市場の混乱にどの程度影響を受けやすいのでしょうか?
A3:米国は窒素肥料の輸入に大きく依存しており、尿素の主要供給国はロシアとカタールです。海峡の閉鎖は、米国の農業生産者にとって特にタイミングが悪く、米国の肥料市場には戦略備蓄がなく、特に春の作付け期には、突然の輸入途絶を補うだけの国内生産の迅速な拡大が不可能とされています。特に窒素肥料の使用量が多いトウモロコシは最も影響を受けやすく、肥料価格が急騰すると、大豆の相対的な収益性が急速に向上し、この傾向はすでに作付面積の予測に影響を与えています。
世界的な影響は既に現れており、外交的な保証が実現しなければ、長期的な影響のリスクは加速するでしょう。ホルムズ海峡の閉鎖期間を超えて、中国が輸出制限を見直すかどうか、どれだけの肥料工場が操業停止または調整を行うか、肥料価格の急落が作付面積と生産性にどれほどの具体的な変化をもたらすか、そして春の作付けシーズンが始まるにつれて農産物先物価格がどのように推移するかなど、いくつかの要因が下流への影響の深刻さを左右するでしょう。
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)