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1391. 窒素にとって炭は、地球を守る素晴らしき相棒
1391. 窒素にとって炭は、地球を守る素晴らしき相棒
はじめに
「何か人の役に立つことがしたい」。研究者になったばかりの私は、漠然とそう思っていました。2021 年から国際農研で働くようになり、石垣島、フィリピン、タイなどを訪れ、現地の風景や子どもたちが元気いっぱい遊んでいる姿を見て、「この自然を残したい」と強く願うようになりました。そして今、地球環境を守るための研究に携わっています。
あれもこれも窒素のおかげ!?
皆さん、“窒素”って小学校や中学校の理科で勉強しましたよね。私たちの身の回りにある空気のおよそ 8 割が窒素です。空気中の窒素(N2)は雷や噴火などによってアンモニア(NH3)などに形を変えます。このように変化した N2 以外の窒素は「反応性窒素」と呼ばれます。反応性窒素は、私たちが生きるために欠かすことができません。例えばタンパク質や DNA などを作るために必要ですし、農業に欠かせない肥料も反応性窒素です。ところで皆さんは、人類が 100 年も前から、空気中の N2 から肥料を作る技術を使ってきたのを知っていますか? 肥料のおかげで作物がたくさん収穫できるようになり、今や世界の人口は 80 億人に達しました。まさに「空気からパンを作る」ことができるようになったのです。
窒素が引き起こす問題とは
肥料をたくさん使えるようになり、私たちは食べ物に困らなくなってきました。でも良いことばかりではありません。畑にたくさん肥料を入れすぎると、植物が使いきれなかった反応性窒素が川や空気を汚し、さまざまな環境問題を引き起こします。そういうことが増えているため、急いで対応しなければなりません。今、世界中の研究者が、窒素が原因で起こる問題を解決しようとしています。土の研究者である私は、「肥料の窒素を土の中に長く留めておくことができれば、無駄なく窒素を使えるようになるのでは?」と考え、研究を進めています。まずは炭を土に入れたときの効果に着目しました。
炭を使って問題解決に挑む!
炭は燃えるだけでなくいろいろな効果を持っています。例えば、臭い取りは皆さんもご存知ですよね。冷蔵庫や靴箱の中に置く商品が、よくホームセンターなどで売られています。実はそれと同じように、肥料の窒素をくっつける効果があることが知られています。でも、「炭を土の中にどの深さまで入れたら良いか」ということは分かっていませんでした。炭の量は同じでも、入れる場所によって効果が変わったら面白いですよね。そこで私は実験装置を作って取り組むことにしました。
オリジナルの装置で実験
目に見えない窒素の動きを追いかけるには、いろいろなセンサーを入れられる装置でなければなりません。また、実験の結果がその時たまたま出てきたもの(外れ値といいます)ではないと確認するために、同じ実験を何回かやる必要があります。そのため使い捨てではなく、何度も繰り返し使える装置であることも求められます。国際農研には研究者だけでなく、さまざまな工作を得意とする技術支援班がいて、彼らのおかげでパイプ試験装置を作ることができました。それを使って実験した結果、炭を浅い場所の土に混ぜ込むと、植物に使われないで地下に流れてしまう窒素が減ると分かりました。
もっと良い炭を探そう!
炭を使って、窒素の無駄を抑える。その効果は、炭を作る時の温度でも異なります。中でも 200 ~ 300℃で作った「半炭化物」と呼ばれる炭は、窒素をくっつけるだけでなく、熱帯・亜熱帯の土を肥沃にしてくれる可能性を秘めています。それを確かめるため、石垣島の熱帯・島嶼研究拠点にあるライシメータという施設を使って実験をしています。そこでは地下に流れる窒素だけでなく、N2O という温室効果ガス(CO2 の約 300 倍の温室効果!)として出ていく窒素も測っています。この規模のライシメータ施設は国内外でも例がなく、亜熱帯地域にこのような施設を持っていることは国際農研の強みです。そこでの試験を通してどの温度で作った炭が良いか分かるはずですが、答えを出すにはもう少し試験を続ける必要があります。
地球の環境を守るために
これまで石垣島でのさまざまな実験を通して、熱帯・亜熱帯で窒素を無駄にしない方法を考えてきました。今後はこの方法をフィリピンやタイで実施して、その効果を検証していきます。また、これまでに集めたデータはシミュレーションモデルに当てはめる予定です。シミュレーションモデルを使うと、実験だけでは分からない土の中での窒素の動きを細かく評価することができます。さらに、地球温暖化が進んで気温が高くなった場合、効果がどのように変わるかという未来予測にも使える可能性があります。
これからも、実験や調査、そしてシミュレーションモデルを駆使して、研究を進めていきます。
それによって子どもたちにより良い地球を残すことができれば、こんなにうれしいことはありません。
本文は、 広報JIRCAS掲載記事 を再掲しています。
(文責:熱帯島嶼研究拠点 濵田 耕佑)




