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1338. 世界の海洋生態系への累積的影響は今世紀半ばまでに倍増予測

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1338. 世界の海洋生態系への累積的影響は今世紀半ばまでに倍増予測

 

海洋生態系は、水産物、海洋・沿岸インフラ、輸送、資源採取に対する人間の需要、そして陸上における様々な農業、工業、都市活動などから生じる栄養塩類や化学物質の流出など、多くの圧力に直面しています。さらに、気候変動は海水の温度やその他の特性を劇的に変化させています。これらの人為的圧力は、海洋生態系の健全性を脅かし、生物の生理、形態、生活史、そして種や生息地の存在に影響を与え、最終的には健全な海から得られる恩恵やサービスを脅かします。

持続可能な未来を計画するためには、複数の圧力による累積的な影響の分布を予測する必要があります。Science誌で公表された論文は、人間活動による世界の海洋生態系への累積的影響は今世紀半ばまでに倍増、将来的な影響は地域によって不均一であり、熱帯地域と極地域の両方で平均的に最も高い影響が見込まれると予想しています。

研究では、今世紀半ば(約2050年)における気候シナリオに基づき、気候 (水温、大気熱指数、海面上昇)、海洋化学 (海洋酸性化、溶存酸素)、陸上 (栄養塩投入、光害、沿岸人口密度)、純一次生産性 (NPP)、および漁業 (漁業バイオマス損失)の圧力が海洋生息地に及ぼす将来の累積的な影響を10km解像度でマッピングしました。その結果、海洋生息地に対する人間活動の地球規模の累積影響は、「中道シナリオ」(SSP2-4.5)で2.2倍、「化石燃料開発シナリオ」(SSP5-8.5で2.6倍に増加すると予測されます。将来的な影響は地域によって不均一であり、熱帯地域と極地域の両方で平均的に最も高い影響が見込まれると予想されます。熱帯地域では、2041年から2060年までに影響は約3倍に増加すると予測されています。

海洋温暖化と不適切な漁業管理は、あらゆる地域と生息地において最も影響力のある要因であるため、予測される累積的影響の増大を最小限に抑えるには、気候変動の影響を軽減し、漁業管理を改善するように設計された政策と管理が必要です。

沿岸域における多様な人間利用とそれに伴う圧力、そして多くの沿岸生息地が様々な圧力に対してより脆弱であることから、いくつかの沿岸生息地への累積的な影響ははるかに大きくなると予測されています。特に、塩性湿地とマングローブは海面上昇の影響を受けやすく、この圧力がこれらの生息地への将来の影響において支配的な役割を果たすと予測されています。また、塩性湿地と海草は極端な気温に敏感であるため、この圧力がこれらの生息地への将来の影響の主要な要因となる可能性が高いと考えられます。これらの深刻な影響を受けている生息地と、それらの影響の主要な要因を対象とした管理活動を優先することで、これらの沿岸地域の海洋状態が最も改善されるはずです。

モデルには不確実性があり、特に、騒音公害、外来種、一部の漁業慣行による生息地の破壊、海洋プラスチック、海岸の硬化、干ばつと塩分変化(沿岸生息地の場合)、そして洋上風力発電プラットフォームや石油プラットフォームなどの海洋構造物の将来の分布と強度を空間的に予測できておらず、人為的活動の累積的影響を過小評価しています。海運、養殖、洋上エネルギーなどに関連する撹乱は今後増加する可能性が高く、将来の累積的影響に大きく寄与する可能性があります。さらに、今回の分析では種レベルの影響は考慮されていませんが、水温の大幅な上昇と海洋酸性化の予測は、サンゴやその他の無脊椎動物群(軟体動物、棘皮動物、頭足動物、甲殻類)にとって特に懸念されます。

重要なのは、この研究結果が、海洋全体の健全性の改善と人々への生態系サービスの提供について、情報に基づいた戦略的な政策と意思決定を可能にするために、常に累積的な影響を評価し、それらの影響をマッピングする必要性を強調していることです。単一の問題や特定の場所に焦点を絞ると、木を見て森を見ずという可能性があります。

 

(参考文献)
Benjamin S. Halpern et al, Cumulative impacts to global marine ecosystems projected to more than double by midcentury, Science (2025). https://www.science.org/doi/10.1126/science.adv2906

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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