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1336. 気温上昇・土壌水分ストレス相互作用による農業生産性変動への影響

1336. 気温ストレス・土壌水分ストレス相互作用による農業生産性変動への影響
平均収穫量とともに、作物収穫量の年次変動は食料安全保障の重要な決定要因です。これまでも温暖化による収量変動の増加が報告されていますが、水利用可能性の変化も収量の重要な決定要因であることがますます明らかになっています。Science Advances誌で公表された論文は、気温と土壌水分の変化によるトウモロコシ、大豆、ソルガムの収量変動への気候変動の影響を地球規模で定量化しました。
気候変動による気温上昇と水利用可能性の変化は、今後もますます収量の減少につながると予測されています。極端な暑さや寒さ、干ばつや浸水の状態は、一般的に収穫量を減少させます。猛暑は、純光合成速度を低下させ、登熟期間を短縮させ、特に生殖発達に重要な植物構造に損傷を与える可能性があります。また、高温は、蒸発と蒸散を制御する蒸気圧差 (VPD) を増加させることで、水需要を増加させる可能性があります。水需要が高く水供給が少ない場合、すなわち根圏土壌水分が低い場合、植物は気孔を閉じ、光合成速度と炭水化物生産を低下させる可能性があります。水供給が少ないと、穀物生産を犠牲にして根の成長が促進される可能性があり、深刻な状況では、作物の枯死を引き起こす可能性があります。
しかし、気候変動が収穫量の変動にどう影響するかは、平均収穫量にどう影響するかよりもはるかによく分かっていません。論文は、気象によって引き起こされる年次収量変動を、温度ストレス、土壌水分ストレス、およびそれらの共分散による変動の3つのメカニズムで捉えることを試みました。論文は、降水量の代わりに土壌水分の変化の影響に焦点を当て、気温と土壌水分の強化された結合が収量変動に及ぼす影響を定量化しました。
分析の結果、収量の年次変動は平均で、トウモロコシで7.1%/℃、大豆で19.4%/℃、ソルガムで9.8%/℃増加するとされました。温暖化による気温変動への感受性の高まりに加え、気候変動下での放射強制力と蒸発と蒸散を制御する蒸気圧差 (VPD)の増加は気温変動と土壌水分との共分散を増加させ、高温と乾燥の両方の条件が収量に悪影響を与えるため、収量変動の増加につながります。この結果は、温暖化または乾燥が進む地域では収量変動の変動性が大きく増加するという知見と定性的に一致しています。
論文は、この分析にはいくつかの限界があり、将来の気温変化予測に比較して将来の水供給変化の予測はそれほど確実ではないことを一例に挙げ、気候モデルにおける土壌水分と気温との共分散の表現の改善必要性を強調しました。とりわけ、作物モデルの訓練とテストに用いる収量データの質と量向上にあたり、作物が気温と水ストレスに対して異なる感受性を示す可能性がある段階の作物生育に関する地球規模のデータが、世界の農業生産性と食料安全保障に対する気候の影響の予測向上にとって重要であると指摘しました。
気候変動の影響下で主要作物の収量変動が世界的に拡大するという研究結果は、適応策の必要性を示唆しています。播種時期の最適化、種子コーティング、耐熱性および耐干ばつ性品種改良は、熱や湿気のショックによる収量変動の拡大を緩和するのに役立つ可能性があります。こうした技術の開発・適用能力は貧困国では一般的に低い傾向がある一方、作物の多様化は、特にサハラ以南のアフリカ地域において、農業収穫を安定させ、気温や水ストレスによる生産性の上昇を緩和できることが示唆されています。気候変動による収量変動の増大は局所的な熱力学的メカニズムによって制御されるという論文の発見は、灌漑など、作物の水供給に関連した局所的な適応策が特に効果的であることを示しています。しかしながら、世界の多くの農業地域において、灌漑用水需要は既に持続可能な水供給量を上回っており、水資源管理と灌漑用水効率の向上のための計画の重要性を示唆しています。
(参考文献)
Jonathan Proctor etc. Climate change increases the interannual variance of summer crop yields globally through changes in temperature and water supply, Science Advances (2025). https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ady3575
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)