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1278. 砂漠化および干ばつと闘う世界デー

1278. 砂漠化および干ばつと闘う世界デー
6月17日は砂漠化および干ばつと闘う世界デー(World Day to Combat Desertification and Drought 2025)です。
今年は、「土地を再生し、機会を解き放つ」("Restore the land. Unlock the opportunities")のテーマの下、自然の基盤である土地の再生が、雇用創出、食料と水の安全保障の向上、気候変動対策の支援、そして経済のレジリエンス構築にどのように貢献できるかにハイライトします。
世界のGDPの半分以上は健全な生態系に依存しています。しかし、毎年、エジプトほどの面積の土地が劣化し、生物多様性の喪失、干ばつリスクの増大、そして地域社会の移住を招いています。その波及効果は、食料価格の高騰から不安定化、そして移住に至るまで、世界規模で広がっています。しかし、土地再生は状況を一変させます。再生に投資された1ドルごとに、7ドルから30ドルの収益が生まれます。土地の再生は、生産性を回復し、水循環を強化し、何百万もの農村部の人々の生活を支えます。
一方、土地の再生には、地域の気候・環境・土壌条件についての科学的知識が求められ、解決が難しい課題も多くあります。その例として、世界の乾燥地における塩害農地の問題を紹介します。
乾燥地農業においては、十分な降雨量がなく灌漑が欠かせません。しかしこの灌漑農業では、農地土壌の塩害が必ず問題になります。乾燥地は土壌層の塩類が海へ流れずに保存されている土地であり、水管理を誤ると作土層へ塩類が集積してしまうことが原因です。また、塩濃度の高い地下水を灌漑用水に使うことで、農地に塩類が持ち込まれることも原因です。
ところで、塩害土壌には、塩濃度が高い「塩性」とナトリウムが優占する「ソーダ質」という、二つの異なる性質があります。どちらかの性質を強く持つタイプと、両方を併せ持つタイプがあり、それぞれ特徴や対策が異なります。特に、ナトリウム塩を多く含む塩害については、塩性だけでなくソーダ質化への注意が必要です。ソーダ質の特徴は、著しい排水性悪化です。この性質が強まると、土壌構造が崩壊し、乾燥すると植物根の伸長ができなくなるほど固くなります。また濡れると粘土粒子が分散移動し、土壌が流亡したり、移動粒子による目詰まり層の形成でさらに排水性が悪化したりします。このような土壌物理性の劣化は、作物生産に壊滅的な被害を出し、農地修復を困難にします。
世界中の乾燥地で塩害農地面積は拡大しており解決しない課題として残っています。その背景には、塩性だけではなくソーダ質化の対策の困難さがあります。科学による解決法を早急に見出していく必要性があります。
*写真は、中央アジアカザフスタン西部の乾燥地風景
(文責:農村開発領域 松井佳世)