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1276. 気候変動が干ばつの激しさを増幅

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1276. 気候変動が干ばつの激しさを増幅

 

干ばつは、世界中の環境、経済、そして人口に影響を及ぼす最も一般的かつ複雑な自然災害の一つです。干ばつは植生に有害であり、生態系の炭素吸収を減少させ、広範囲にわたる植物の枯死を引き起こし、生態系機能の重大な混乱と生物多様性の損失につながります。また、作物の生産性にも悪影響を及ぼし、食料不安と経済の不安定さを悪化させます。

気候変動により、干ばつの頻度と激しさが増し、農業、環境、水文学的システムへの影響が増大すると予想されています。大気蒸発需要(atmospheric evaporative demand AED)の広範囲にわたる増加と地域的な降水量の減少により、ここ数十年でいくつかの地域で水文学的および農業的干ばつの深刻度の増加が観測されています。気候モデルによる将来予測では、降水量の減少と AED の増加により、一部の地域で干ばつの深刻度が増すことも示唆されています。しかしながら、世界の干ばつの傾向には大きな不確実性があり、AEDが、近年の干ばつの規模、頻度、期間、面積の推移にどの程度影響を与えているかについての理解は限られています。

Nature誌で公表された論文は、1901年から2022年までの高解像度の世界規模の干ばつデータセットのアンサンブルを開発することで、世界中の干ばつの深刻度が増加傾向にあることを発見しました。干ばつ指数モデルには、標準化降水蒸発散指数(Standardized Precipitation Evapotranspiration Index SPEI)を適用し、降水量と AED の差を通じて干ばつの需給ダイナミクスを効果的に表し、さまざまな世界の地域や気候条件での AED 変動の空間的および時間的な比較と定量化しました。

分析結果は、AEDが世界の干ばつの深刻度を平均40%増加させたことを示唆しています。過去5年間(2018~2022年)に干ばつが観測された地域は平均で27%、1981~2017年と比較して74%高くなっています。地域別に見ると、干ばつの影響を受けた地域は、1981~2017年と比較して、2018~2022年にオーストラリアで119%、南米南部で163%、米国西部で141%増加しました。同様に、過去5年間で、東アフリカ、北アジア、ヨーロッパの干ばつ地域はそれぞれ75%、80%、56%増加しました。

2022年の干ばつの深刻度は、1981~2022年の期間と比較して記録的な水準となり、干ばつ地域が最も広く(30%)、ヨーロッパ、東アフリカ、米国西部、南米南部で中程度から極度の干ばつを示しました。全体として、乾燥した地域がさらに乾燥しているだけでなく、湿潤な地域も乾燥傾向にあることを示しています。

論文は、AEDが深刻な干ばつの発生においてますます重要な役割を果たしており、この傾向は将来の温暖化シナリオ下でも継続する可能性が高いことを示しました。

 

(参考文献)
Gebrechorkos, S.H., Sheffield, J., Vicente-Serrano, S.M. et al. Warming accelerates global drought severity. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09047-2

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

 

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