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1258. 2025年 世界食糧賞 : 熱帯農業における共生土壌微生物の活用

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1258. 2025年 世界食糧賞 : 熱帯農業における共生土壌微生物の活用

 

窒素は植物の成長と生産に不可欠な栄養素であり、近代的な農業においては化学肥料によって供給されています。しかし、化学窒素肥料の過剰使用は、温室効果ガスである亜酸化窒素の排出や水質汚染につながることが問題視されています。これに対し、生物学的窒素固定は、自然界に存在する微生物が植物と相互作用して空気中の窒素を土壌に固定し、植物の根がそれを吸収するプロセスです。

2025年の世界食糧賞は、生物学的窒素固定に着目した技術開発と社会実装を通じ熱帯農業における土壌の健全性と持続的な作物生産に大きな貢献をした、Dr. Mariangela Hungria博士に与えられると発表されました。

Hungria博士は、バクテリアを利用して窒素を供給することで、農業の環境への影響を軽減し、高価な輸入肥料への依存を減らすことができると考え、ブラジル国立大豆センター(Embrapa Soja)での数十年にわたる研究開発を通じて、バクテリア株を分離し、植物の成長を促進する可能性を検証しました。米国、オーストラリア、ヨーロッパにおける既存の研究では、大豆への単回接種では、化学肥料を用いた場合と同等の収量が得られないことが示されていました。しかし、Hungria博士は、生育期ごとに大豆に接種することで、土壌中の有益な細菌が容易に利用できることを実証し、毎シーズンの再接種により、従来の化学肥料を用いた場合と比較して、最終的に収量が8%増加することを示しました。

博士は、大豆、インゲンマメ、トウモロコシ、小麦、イネ、牧草など、主要作物向けに、種子や土壌に施用する有益な細菌を含む30以上の微生物関連技術の開発を主導しました。博士は土壌微生物学において「基礎から応用まで」のアプローチを採用し、細菌の進化の研究から農家向けの微生物接種剤の開発に至るまで、一貫して研究を進めました。博士はフィールドデーに参加し、普及活動における研修を主導し、技術パンフレットや熱帯土壌微生物学に関する初のポルトガル語マニュアルを執筆しました。これらは、製造業者が接種剤製造のための方法論とプロトコルを導入するのに役立ち、大豆生産者の間で微生物接種が急速に普及しました。現在、この技術はブラジルの大豆栽培面積の85%、3,000万ヘクタール以上で毎年使用されており、これは世界で最も高い接種導入率を誇っています。

博士の研究は、ブラジルが生物学的接種剤の商業利用において世界をリードする国となることに大きく貢献しました。博士と彼女の研究グループが開発した技術は、ブラジルの4,000万ヘクタール以上の農地を含む、世界中で採用されています。これらのイノベーションにより、ブラジルの農家は年間約250億ドルの投入コストを削減し、2億3000万トンのCO2換算排出量を削減し、合成窒素肥料のみでは不可能だった収量増加を実現しました。この成果とその他の科学的進歩により、ブラジルは世界有数の大豆生産・輸出国へと躍進し、過去数十年にわたる同国の農業と経済成長の基盤を築きました。

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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