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1246. 大気中の炭素を吸収して地球を冷却する3つの方法

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1246. 大気中の炭素を吸収して地球を冷却する3つの方法

 

世界が長期的な気候変動目標を達成するには、今世紀半ばまでに年間60億トン以上のCO2を大気から除去する必要があるという推計もあります。2015年のパリ協定で定められた気温目標を世界が大幅に超える可能性が高くなっている中、世界中の政府、公益事業会社、そして数百ものスタートアップ企業が、大気から直接炭素を吸収する、海洋を改造して通常よりも多くの炭素を吸収させる、そして陸上での炭素除去を強化するという、3つの主要なアプローチに基づく炭素除去戦略に投資を行っています。一方、炭素除去業界は、技術に関する国際基準や政府による正式なコミットメントの欠如など逆風に直面し、技術が新興の炭素除去市場の期待に応えられるかどうかという科学的な疑問もあるそうです。Nature誌の論説から要点を紹介します。

 

大気から炭素を回収する

大気から炭素を回収する最も安価な方法は森林を増やすことですが、木々は伐採されたり、火災で燃えたりする可能性があり、こうした脅威はますます高まっています。そのため、多くの科学者や産業界は、より永続的ながら、より高価な解決策に注力しています。最も簡単な方法は、工業規模の直接大気回収ですが、これは最も高価でもあり、CO2 1トンあたり600~1,000ドルかかり、欧州連合(EU)排出量取引制度における炭素クレジットの価格の約10倍に相当します。世界最大規模の直接大気回収施設による年間50万トンの二酸化炭素を回収し地中に埋める計画が今年後半にテキサス州西部で稼働開始予定など、いくつかのプロジェクトが計画されていますが、米政権移行後、これら事業への支援継続について不確実性が高まっています。

 

海洋の錬金術

海洋のアルカリ度がわずかに上昇するだけで、世界中の沿岸国は合計で年間10億トンのCO2を大気から回収できると推計されており、これは日本の年間炭素排出量とほぼ同等で、世界の排出量の約3%に相当します。海洋化学を変化させて炭素を吸収する手法のコスト推定値のほとんどは、直接大気回収よりも安価になる可能性が高いことを示しています。米国海洋大気庁(NOAA)が調整する研究する官民共同研究プログラムを通じて資金提供を受けているプロジェクトは、海洋におけるCO2吸収の様々な方法に焦点を当てています。その一つは、最終許可が下りれば、8月に、マサチューセッツ州沖に50トンの水酸化ナトリウムと不活性トレーサー染料を含む溶液を放出し、海水の酸性度を下げ、大気中の二酸化炭素吸収量を増加させる様子をモニタリング・定量化し、生物学的な影響を評価することで、スケールアップの可能性を示すことを目指しています。このほかにも、NOAAから資金提供を受けているプロジェクトは今のところ前進しており、海水に鉄分を施肥して植物プランクトンを増やす方法や、海藻の養殖などの研究もあります。

 

土地の緑化

陸上でも炭素除去に向けた同様の取り組みが進められ、世界中の多くの科学者や起業家が、耕作地がより多くの炭素を吸収・貯蔵できるようにする方法を研究しています。まず、植物質を木炭のような物質に変換することで作られる、炭素を豊富に含む物質「バイオチャー」は長期間にわたって炭素が大気中に放出されるのを防ぎます。また、玄武岩などのケイ酸塩を豊富に含む鉱物を農地に施用すると、二酸化炭素と水と反応して安定した重炭酸イオンを形成し、それが溶解して海に流れ込み、炭素を閉じ込めます。炭素除去に最も大きな可能性を秘めた戦略は、農業廃棄物、森林残渣、そして場合によっては、建築資材などの長寿命製品に変換できる特定用途栽培作物から生まれる可能性があります。こうした技術により、米国の年間炭素排出量の約17%に相当の炭素を、CO2 1トンあたり100ドル未満で達成可能とも推計されていますが、課題は、技術を大規模に展開するために農業~輸送業者~エネルギー生産者まであらゆる関係者を巻き込むロジスティクス策定にあります。

 

ネットゼロ排出の目標を達成するためには、今後数十年で多様な選択肢が必要となります。企業や各国が真にクリーンなエネルギーへの移行ではなく、化石燃料による排出量を単純に相殺する口実を与える可能性を防ぐためには、排出量削減と炭素除去について別々の目標を設定することが必要となります。また、バイオエネルギープラントの燃料となる作物の栽培は、大量の淡水と肥料の使用や生物多様性への悪影響も伴います。大規模な炭素除去を実現する未来への容易な道筋はなく、世界の指導者たちは将来の世代が後始末をしてくれると想定するのではなく、今すぐ排出を食い止める努力を急ぐ必要があります。

 


(参考文献)
Jeff Tollefson Three ways to cool Earth by pulling carbon from the sky. NEWS FEATURE 23 April 2025. Nature 640, 872-874 (2025) doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-01233-6


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

 

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