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1199.サトウキビ野生種の多回株出し調査が終了!(寳川通信3)

1199.サトウキビ野生種の多回株出し調査が終了!(寳川通信3)
熱帯島嶼研究拠点が所在する石垣島を始めとする南西諸島では、生産者の高齢化もあり、収穫後の地下株を残し“ひこばえ”を再度収穫まで栽培する株出し栽培が省力的な作型として主流になっています。また、耕起回数を減らせることや肥料効率が良いことから、省力化に加えて低炭素を実現する持続可能な栽培方法としても注目されています。さらに、株出し回数を増やしたいのですが、2回3回と株出しを繰り返すと収量が漸減することがよく起こります。そのため、多回株出ししても生産力の低下しない栽培法の開発や品種改良が求められています。C4「熱帯作物資源」プロジェクトにおいては、亜熱帯気候や豊富な遺伝資源といった熱帯・島嶼研究拠点の利点を活かし、多回株出し性改良を目的として、国内収集系統を中心としたサトウキビ野生種(Saccharum spontaneum)の多回株出し性を評価する試験を実施しています。
社会的需要がありながら、多回株出し性改良の栽培試験は長期間を要し、特に遺伝資源集団などの多点を扱う場合に更に調査が煩雑化・長期化するため、世界的にもほとんど研究されていませんでした。国際農研が中心となって前中長期までに実施してきた、タイにおけるエリアンサス遺伝資源の多回株出し評価は世界的にも例を見ない研究事例(Terajima et al. 2022)であり、今中長期におけるデータベース(https://www.jircas.go.jp/ja/database/erianthus)の公開により更なる研究の発展が期待されます。同様に、上述の国内収集野生種の多回株出し性評価についても成果を取り纏め積極的に発信していく予定で、有望系統を用いた交配にも着手しています。
今回の野生種の多回株出し性評価は、2021年度の新植から3回の株出しを合わせて計4作期(4年間)実施されました。収穫調査は、2022年から年明けの恒例行事となり、約1600株の調査を約1か月かけて実施してきました。午前中は、刈り取りして株重量や茎数を在圃で計測し、午後は調査場で代表茎を用いて茎長や茎径等の詳細な調査を実施し、夕方に乾物測定のための裁断を実施するというのが1日のルーティーンです。夏場の暑さは無いのですが、石垣島でも冬場は寒く感じる日が多く、雨天決行のため、継続的な調査には辛抱強さが求められます。このような長期に亘るサトウキビ研究には技術支援室の職員や契約職員の方々のご理解とご協力が不可欠となっております。上記写真は、収穫調査を終了し、残渣を掃除して解放された様子です。サトウキビの収穫調査は12月から翌3月まで続きます。この場を借りて日頃のご支援に感謝申し上げます。
(参考文献)
Terajima et al. (2022). Genetic variation in agronomic traits of Erianthus germplasm under multiple‐ratoon crops in Thailand. Crop Science, 62(4), 1531-1549.
(文責:熱帯・島嶼研究拠点 寳川拓生)