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1177. 生物多様性喪失の回避には高収量農業が不可欠となる

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1177. 生物多様性喪失の回避には高収量農業が不可欠となる

 

人類は地球の陸地面積の70%以上を改変し、陸上植生に蓄積されたバイオマスを半減させ、評価対象の種の4分の1以上が現在絶滅の危機に瀕しており、多くの研究がこれらの影響が今世紀に著しく増加することを示唆しています。生物多様性喪失の問題に関しては、国際的合意、行動喚起、そして保全介入へ投資が行われてきたにもかかわらず、依然として生物多様性の減少を食い止めることに失敗しています。

食料生産は、他のどの人間活動の分野よりも生物多様性に影響を及ぼすと指摘されてきました。農業は居住可能な土地の約50%を占めており、拡大を続けています。近年の熱帯林伐採の少なくとも90%は農業が主な要因となっている地域で行われており、新たに開墾された土地の約半分が家畜や作物の生産に使用され、耕作地の拡大が継続しています。これらを踏まえると、農業が陸上生物多様性に対する最大の脅威であることは驚くべきことではありません。

農業分野における生物多様性の保全は、革新的な思考と大胆な対応を求めています。しかし食料生産の生物多様性への影響を制限する最良の方法については大きな議論があります。Phil. Trans. R. Soc. B.で公表されたレビュー論文は、生物多様性喪失の抑制のためには、面積当りの高収量を維持する持続可能な農業集約化が不可欠であると論じました。

増加する食料需要に応えるためには農地が必要となりますが、特にサハラ以南アフリカではその傾向が顕著です。アフリカに関しては、農業への慢性的な投資不足と農業生産量の停滞、急速な人口増加、一人当たりの食料需要の増加が相まって、現状維持のシナリオの元、2010年から2060年の間にアメリカ本土の半分の面積相当が農地拡大に必要となると推計され、うち13か国は農地面積を4倍以上に拡大する必要があると考えられています。その結果生じる生息地の喪失が生物多様性に与える影響は壊滅的であり、例えば、大型哺乳類の絶滅リスクは50年間に4倍になると予測されています。

環境負荷の低い食生活と食品ロス・廃棄物への対応は、種の絶滅危機を食い止めるために不可欠である一方、農地当たり収量の維持・増加を目的とした供給側のアプローチは依然極めて重要です。生物多様性保全の観点からは、既存農地での局所的な生物多様性の利益を維持するかわりに農地拡大による生物多様性コスト(Land Sharing)を容認するのか、ランドスケープの一部で持続可能な高収量農業を追求し、他の場所で大規模な自然生息地を保護または回復する(Land Sparing)のか、生産的な土地を包括的にとらえたうえで保全介入のメリットを評価する必要があります。世界的には、既存農地の収量を向上することが生物多様性向上に貢献してきたというエビデンスの方に軍配があがるようです。

世界の食料システムは、すべての人為的温室効果ガス排出の約3分の1を占めており、持続的な土地利用による炭素隔離の機会費用を考慮すれば、気候変動緩和の視点からも持続的な高収量農業の重要性の意義は高まります。

 

(参考文献)
Balmford Andrew, Bateman Ian J., Eyres Alison, Swinfield Tom and Ball Thomas S. 2025. Sustainable high-yield farming is essential for bending the curve of biodiversity loss. Phil. Trans. R. Soc. B. 38020230216 http://doi.org/10.1098/rstb.2023.0216

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

 

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