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1164. 生物多様性、水、食料及び健康のネクサス

1164. 生物多様性、水、食料及び健康のネクサス
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)は、しばし、「生物多様性版のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)」とも呼ばれます。
12月16日、IPBESは、「生物多様性、水、食料及び健康の間の相互関係に関するテーマ別評価(ネクサス評価)The Assessment Report on the Interlinkages Among Biodiversity, Water, Food and Health – known as the Nexus Report」政策決定者向け要約を発表しました。
生物多様性の喪失、水・食料不安、健康リスク、気候変動など、環境・社会・経済的な危機には密接なつながり(ネクサス)があり、連鎖的な相互作用を持つため、個別の危機に対応するアプローチはむしろ逆効果をもたらすこともあります。ネクサス評価は、世界中の政策決定者に対し、生物多様性、水、食料、健康、気候変動の5つの「ネクサス要素」におけるシナジーとトレードオフを明らかにし、コベネフィットを最大化するための具体的な対応オプションを検討しました。
同報告書によると、世界のGDPの半分以上(全世界の年間経済活動の50兆ドル以上)が、中程度から高度に自然に依存しているにもかかわらず、短期的な経済的リターンが優先され、自然界に対するコストを関係者に負担させることができていません。経済発展と金融の安定を脅かす生物物理学的リスクのエビデンスが増えています。食料生産を含む現在の経済活動が生物多様性・水・健康・気候変動に及ぼす影響のうち、生態系に対する計上されていないコストは、少なくとも年間10〜25兆ドルにのぼると推定されています。にもかかわらず、生物多様性に悪影響を与える経済活動への直接的な公的補助金(年間約1兆7,000億ドル)と並んで、このような未計上コストの存在は、自然に損害を与えかねない経済活動に対する民間投資を促す誘因となります(年間約5.3兆ドル)。
現状維持の既定路線が続けば、気候変動は加速し、世界的な政策目標を達成するための課題が山積し、生物多様性・水・人間の健康にとって非常にまずい将来が待っています。同様に、ネクサスの一部分だけの結果を最大化することは、しばし他のネクサス要素にマイナスの結果をもたらす可能性があります。例えば、食料増産を優先する「フードファースト」のアプローチは、一人当たり消費量増加を通じ栄養にプラスの利益をもたらしますが、生物多様性、水、気候変動に悪影響を及ぼす可能性があります。また、気候変動だけに焦点を当てると、生物多様性と食料生産との間で土地利用の競合がおこり、負の影響を及ぼす可能性があります。
分断・孤立した制度や矛盾した政策は、SDGsの目標達成を脅かします。より統合され、包括的で、公平で、適応的な『ネクサス・ガバナンス・アプローチ』への移行が必要です。
報告書は、生物多様性、水、食料、健康、気候変動、全体を持続的に管理する政策・政治的な選択肢が存在すること、中には低コストのものもあることを示しています。ネクサス要素全体でプラスの影響が期待される対応オプションの例として、森林・土壌・マングローブなどカーボンを豊富に含む生態系の回復;人獣共通感染症リスクを減らすための生物多様性の管理;統合されたランドスケープとシースケープ管理の改善;都市におけるネイチャーベースド・ソリューション;持続可能な健康的な食事;先住民族の食料システムの支援、を挙げています。
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)