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777. 食と気候のネクサス

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777. 食と気候のネクサス

食料システムと気候変動は双方向の関係性を持ちます。食料システムは気候変動により大きな被害をこうむりますが、同時に過剰な肥料使用や土地利用変化を通じて温室効果ガス排出し、気候変動の原因ともなっています。一方、食料システムにおけるイノベーションを講じることで、気候変動緩和・適応に貢献することも可能です。講じるべき対策は技術的なものに限らず、制度的、財政的、政治的、さらに人間の行動変容も含め、早急な取り組みが求められています。

食料システムと気候変動のこのような繋がりを、ネクサス、という言葉で表現することがあります。ネクサス ( 英語: nexus )とは、「連結」「連鎖」「繋がり」などを意味する名詞で、食料システムと気候変動、また気候変動と生物多様性、さらにそれら全ての密接で双方向な因果関係を示す際にネクサスが使われるようです。Nature Food誌に掲載された、食と気候、食料システムと気候変動、のネクサスに関する論考を紹介します。


論稿は、今年3月に公表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価統合報告書(AR6)に言及、今日、食料システムが世界の人為的な温室効果ガス排出量の3分の1を占めると同時に、気候変動の影響によって世界の食料安全保障は脅威にさらされている中、食料システムによる緩和・適応策への貢献の可能性を指摘しました。パリ協定の目標達成にはすべての分野が緩和及び適応に向けた取り組む必要がありますが、AR6報告書は他のセクターと密接な連携を持つ食関連分野への働きかけによって、比較的低いコストで即戦的な効果(健康改善など)が期待できることに着目しています。農業生産、食習慣や土地利用などさまざまなファクターにおける改善が緩和策につながるのです。

続いて、AR6報告書は、以前の報告書とくらべても、損失と損害(loss and damage)に関する信頼しうるエビデンスを提供し、具体的な気候変動対策のコスト&ベネフィット評価の正確度を上げ、気候変動の人間社会への側面に配慮する上で幅広い社会科学者らの参加を実現し、温暖化の安定化を追求することで、世界経済はコストを上回る便益を享受しうることを初めて明記しました。一方、報告書は、経済のさまざまなセクターにおける変化、変化によって生じる相乗効果やトレードオフなどに関して、包括的なアプローチでリスク・インパクト・対応を評価した上で、世界は気候変動を抑制する方向で進展しているものの、パリ協定のもとでの1.5℃目標を達成するには十分とは言えないと指摘しました。

Nature Food誌の食・気候ネクサス特集号では、食料システムと気候変動の相互関係に焦点を当て、政策立案者らにとって参考となる相互に利益になるソリューション(win-win solutions)を提案しています。一方、AR6報告書のモデルも十分に栄養面をカバーしておらず、基本的には技術面に焦点を当てるにとどまり、食料安全保障の3大柱であるアクセス可能性(accessibility)、利活用(utilization)、安定供給(stability)を十分取り上げることはかないませんでした。また、データの制約により、様々なスケールや条件においても適用できるかという一貫性にかかわる、モデル結果の粒度について妥協せざるをえませんでした。

包括性(inclusiveness)および公平性(equity)の側面も忘れてはなりません。低所得層ほど気候変動適応へのギャップが大きいこと、このズレは気候正義(climate justice)を念頭に社会全体に支援を届けることで解消することが期待できます。

最後に重要な点として、気候変動の適応に関する定量的評価が十分反映されていない点を指摘しておきます。気候変動の将来シナリオ評価に用いられる気候変動のインパクトモデルや評価モデルは、異なるコンテクストの下での特定の適応策のコストや有効性を予測することには優れていません。今回公表されたAR6は、おそらく、気温上昇1.5℃を超える前の最後の報告書ですが、今後、気候変動の傾向をいかに正確に予測、評価できるかが課題となっています。気候変動はもはや他人の問題ではなく、研究者らも重要な役割を担うとともに、全ての人々にあらゆるアクションが求められています。


(参考文献)
The food–climate nexus. Nat Food 4, 271 (2023). https://doi.org/10.1038/s43016-023-00745-6

(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)
 

 

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