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826. 気候変動と気候正義

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826. 気候変動と気候正義

 

毎日暑い日が続き、世界中から熱波のニュースが届いています。ギリシャ、イタリア、スペインなどでは連日40℃を超える気温が観察され、観光地の労働者もストをするほどのようですが、地中海地域は実際に温暖化が最も加速している地域の一つで、その原因としてエアロゾルの減少と表層土壌水分の減少トレンドが絡み合った効果を指摘する研究もあるようです。 

一方、気候変動の影響は、温室効果ガス排出源となっている国や地域にとどまらず、これまで殆ど排出をしてこなかった後発開発国・地域、いわゆるグローバルサウス、も負の影響を大きく被ります。こうした地域の中には、例えば島嶼国など、海水面上昇により生活を送ることが困難となり、適応の道さえ閉ざされている人々も出てきています。

異常気象がもたらす人的コストやインフラ破壊による経済コストといった負の影響は、しばし途上国による適応策の限界を超えていることから、気候変動交渉の国際的議論において「損失と損害(loss and damage: L&D)」の必要性が叫ばれるようになりました。  2022年のCOP27では、気候変動の悪影響に対して脆弱な途上国を支援するための「損失と損害」に対する基金の設立が盛り込まれ、 2023年のCOP28において、基金の運用の在り方が議論される見込みです。
 


最近、Nature Climate Change誌で公表された論文は、過去の経済発展は排出国に大きな経済的な富をもたらしてきた一方、過去・現在・そして将来にわたり、世界の包括的な富(Inclusive Wealth)を損なってきたと論じます。論文は、1950年から2018年までの期間のデータを集計解析し、今日経済的に繁栄している国々の私的な富は、気候変動の犠牲のもと、世界の包括的な富を借り入れる(Climate Wealth Borrowing)結果成立してきたと主張、温室効果ガス排出の責任の所在を歴史的に遡って評価する必要性を訴えました。

 

一方、npj Climate Action誌で、やはり最近公表された論文は、気候変動の責任の所在と気候変動対策の実行が、空間的(spatial)に乖離しているという側面を有するゆえに、実現の難しさがあることを論じています。世界的には気候目標の重要性は理解され、国際政治的なコミットメントへの合意形成は実現する一方、実際にアクションを実行する主体は空間的に限られた範囲で活動しています。このため、規範的な目標と実際の行動が乖離し、個人あるいは集団的が実行に移す意欲が減退することもあります。論文は、気候変動の責任論は、「どのように責任をとるべきか」といった規範的・倫理的概念から、カーボン・オフセットの施策など具体的なコンテクストにおいて「どの程度まで責任をとれるか」という実践に比重を置くべきであると提案しています。

 

世界全体で気候変動対策の推進加速が求められる中、気候正義も踏まえ、具体的なコンテクストでの技術・政策協力が必要となっていくと思われます。

 

(参考文献)
Rickels, W., Meier, F. & Quaas, M. The historical social cost of fossil and industrial CO2 emissions. Nat. Clim. Chang. 13, 742–747 (2023). https://doi.org/10.1038/s41558-023-01709-1

Moos, T., Arndt, M. Practices of climate responsibility. npj Clim. Action 2, 16 (2023). https://doi.org/10.1038/s44168-023-00044-7

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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