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610. 気候のエンドゲーム

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610. 気候のエンドゲーム

8月31日、アメリカ海洋大気局は、2021年気候白書(State of the Climate in 2021) を発表、昨年、大気中の温室効果ガス(二酸化炭素・メタン・亜酸化窒素の全て)の濃度と海面水位が過去最高を記録し、気候変動が加速していることを示唆しました。衛星による観測が始まった1993年より海水面が9.7cm上昇したとのことですが、現在、海水面上昇にもっとも貢献しているのがグリーンランド氷床の融解です。別の研究では、グリーンランド氷床が2000年から2019年にかけて記録された速度で融解し続けた場合、今世紀中に海面が27cm上昇する可能性を指摘しています。 

北極海の温暖化は他の地域に比べ早く進んでいるとも言われ、氷床の融解が大気の流れを改変する転換点: Tipping Pointとなり、地球規模で異常気象をもたらす恐れが指摘されています。 実際に、8月には、アジアでも、中国南部では記録的な熱波と干ばつが、 パキスタンでは例年の10倍近くを超えるモンスーン降雨量が300万人被災する洪水をもたらしており、この原因として気候変動が指摘されています。 

 

PNAS 誌に「Climate Endgame: Exploring catastrophic climate change scenarios 気候のエンドゲーム:破滅的な気候変動シナリオの精査」とする論考が発表されました。 論文は、気候変動によって社会が破綻する可能性をはらんでいるかについて、十分な理解は進んでいないものの、最悪の可能性を想定することが、賢明なリスク管理上必要であると訴えています。

論文は、その根拠として、1983年の「核の冬nuclear winter」論争が非核化に向けた世論形成に与えた影響、一方で十分な備えのないままCOVID-19パンデミックが世界に引き起こした事態を挙げています。

論文は、極端な結果を引き起こすことのメカニズムの分析は、行動を起こさせ、強靭性を改善し、緊急対策をふくむ政策策定に役立つとしています。これは単に高温シナリオだけでなく、気候変動がシステミックなリスクによってドミノ倒し的に様々な想定外の事態を引き起こすことへの理解も含みます。
著者らは、最悪のケースを想定しないで気候変動に向き合うことは、あまりにもナイーブなリスク管理と言わざるを得ないとし、最悪のケースを想定するリスク管理の必要性を世論に効果的に訴えるコミュニケーションの重要性を指摘しました。

 


(参考文献)
Luke Kemp et al. Climate Endgame: Exploring catastrophic climate change scenarios. PNAS. 119 (34) e2108146119 https://doi.org/10.1073/pnas.2108146119

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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