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718. 食料システムにおける損失と損害への対応

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718. 食料システムにおける損失と損害への対応

これまで、国連気候変動枠組条約における交渉では、気候変動への緩和(温暖化を回避するためのアクション)と適応(不可避なインパクトに適応するための計画と投資)という二つの戦略についての議論が行われてきました。しかし、気候変動対応が「少なすぎ、遅すぎる」ことで、人命や所得、インフラから生物多様性、文化遺産、伝統知、の存続に多大な影響が及ぶようになってきました。適応策の限界を超えた気候の大惨事に対応するため、「損失と損害(loss and damage: L&D)」という第三の交渉が必要になってきました。これを受け、昨年11月の国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)では、「損失と損害」について議論がなされ、気候変動で発展途上国に生じた被害に対する支援基金を設立することで合意に達しました。 

気候変動による「損失と損害」は、多くの地域において食料システムの崩壊を通じ、飢餓の悪化をもたらす可能性もあります。このたび、Nature Food誌にて、「食料システムにおける損失と損害への対応」、とする論考が発表されました。

気候変動対応の金融負担は二酸化炭素の排出国ではなく、最も気候変動の影響を受けやすい経済の脆弱な社会層に押し付けられています。また気候変動による気候災害のL&Dに関しては、食料援助機関が本来の業務の範疇を超えて対応を迫られることになり、人道危機支援システムへの負荷をもたらします。

論稿は、昨年のCOPにおいて、L&Dについての議論が概念から具体的な金融メカニズムの在り方に格上げされたことについて歓迎しつつも、むしろ温暖化の惨事を緩和したり予防する措置に十分な投資を怠ってきた結果であると評しています。

L&Dは、災害予防の間での金融・政治的なトレードオフに直面する国際援助システムにとり課題を突き付けます。今日の災害救助活動の現実から得られる教訓は、気候危機の最前線におかれたコミュニティは、気候変動国際交渉を通じて温室効果ガス排出削減の成果が出る、あるいは金融システムへのアクセスを可能にするイノベーションができるまで待つ余裕はないということです。

食料システムにおいてL&Dに対応するためには、各国が気候リスクに対応する方法を変える必要があります。より頻繁で強度を増した気候異常気象に対応するには、政府は気候変動がもたらしうる緊急事態に対応するための準備をしておく必要があります。危機ごとの人道支援的な対応型のアプローチは、複層的な要因で長引く緊急事態に対して財政的に持続的ではありません。

脆弱なコミュニティは既に危機に直面しており、これまた既に資金難に陥っている人道支援システムの限界を踏まえれば、現場のニーズに即した長期的な視点からの支援を必要としています。何よりも、来たりうる災害にあらかじめ備え、脆弱な人々や資産を予め保護するための時限的措置を通じ、L&Dを回避・最小化し、リスク吸収を可能にする強靭性強化への投資を通じて対応すべきです。

論稿は、気候変動が、危機を回避し管理するために世界が協力できるかどうかの試金石になりつつある、と述べました。

 

(参考文献)

Laganda, G. Responding to loss and damage in food systems. Nat Food (2023). https://doi.org/10.1038/s43016-023-00702-3


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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