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663. 食料と農業の持続可能なトランスフォーメーションに向けて

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663. 食料と農業の持続可能なトランスフォーメーションに向けて:FASTイニシアティブ

世界の温室効果ガス排出の3分の1を占める食料システムですが、同時につい先日8億人に達したと推計される世界人口を養っていくのもこのシステムです。気象パターンや土地利用の変化、頻度を増した異常気象によって、食料システムは既に多大な被害を受けています。中でも特に被害度が大きいのが政治経済的に不安定な発展途上国と女性や子供、先住民といった脆弱な社会・自然環境におかれた人々です。

11月18日まで予定されていた国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は、「損失と損害」について先進国と途上国の溝が埋まらず、会期を延長することになりました。最終的には、先進国側の譲歩により、気候変動で発展途上国に生じた被害に対する支援基金を設立することで合意に達しました。

 

2030年までに地球の温暖化上昇を1.5℃未満に抑えるグローバル目標に向け、食料システムを持続可能なものに転換していくことが求められていますが、そのためには気候変動対策のファイナンスを適切な管理のもとに効果的に実施すると同時に、地球規模・地域レベルでの取り組みと連携していく必要があります。

今回は、会期中の11月12日、「適応と農業の日」に立ち上げられたFASTイニシアティブ(Food and Agriculture for Sustainable Transformation Initiative)について紹介します。

FASTイニシアティブとはFood and Agriculture for Sustainable Transformation Initiative の略です。 FASTイニシアティブは、2030年までの農業・食料システム(Agrifood  systems)転換達成に貢献するために、気候変動適応と温室効果ガス排出削減を促進する気候変動ファイナンスの量・質向上を目指します。FASTイニシアティブは、既存のグローバル・地域レベルでのイニシアティブと重複することなく、農業・食料システム転換を加速させるための連携・パートナーシップの触媒としての役割を担います。

国連食糧農業機関(FAO)や国連機関による中立的な立場によるファシリテートのもと、FASTイニシアティブの基本理念として、次が挙げられています。

  • 食料安全保障と農業・食料システムの多様性担保
  • 女性、若者、先住民、脆弱な立場のエンパワーメントと関与
  • ローカルナレッジやプラクティスを含む科学とイノベーションの活用
  • 持続可能な開発目標2030アジェンダのトレードオフとシナジーを念頭に、持続的な農業・食料システムの潜在性を解き放つことを目指す包括的なビジョンの推進
  • アクター間での知見や情報の共有促進
  • 政府に加え、科学、金融、市民社会といった様々な利害関係者からなるバランスの取れた取り組み環境の構築
  • 加盟国の関心・優先課題・ニーズの違いを踏まえ、柔軟な関与の在り方の担保
  • 地球規模および地域レベルのイニシアティブやパートナーシップとの重複を避け相乗効果を最大化するための調整

持続的な農業・食料システム転換のための連携を通じた持続可能な開発への貢献に向けて、イニシアティブの今後の展開に期待します。

 


本日11月22日(火)午後、JIRCAS国際シンポジウム2022「持続可能な食料システムにおける零細漁業と養殖業の役割」がハイブリッド開催されます。水産食品は多様かつ様々な微量栄養素に富み、栄養源の多様化に貢献します。持続的な食料システムの構築において、これまで以上に漁業・養殖業は重要な役割を果たすことが期待されています。強靭かつ誰も取り残さない持続的な漁業・養殖業の発展を実現するための科学技術イノベーション振興のために、関係者の教訓・経験の共有が望まれます。参加申込は終了しましたが、後日、国際農研のYouTubeにてシンポジウムの様子をオンライン配信する予定です。


(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)
 

 

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