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923. 持続可能な食料生産に向けたイネの分げつの可能性

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923. 持続可能な食料生産に向けたイネの分げつの可能性

 

イネなどの穀物の枝分かれ(分げつ)は、穂の数を決定するための重要な形質であり、最終的に穂を生み出す分げつ(有効分げつ)は、高収量を達成するために不可欠です。最近の分子生物学の進歩により、イネの分げつ発生のメカニズムがより詳細に明らかになってきましたが、イネの育種や栽培に役立つ分げつ発生と高収量に関わる遺伝子はまだまだ限られています。そのような中、最近見出された遺伝子MP3は、分げつを促進し、穂数を適度に増加させることが示されました。興味深いことに、MP3はトウモロコシの栽培化遺伝子TB1と共通の祖先遺伝子から生じたものでした。トウモロコシはTB1の機能が強化されることで、枝分かれが生じない草型を獲得しましたが、イネのMP3は機能を少し落とすことで穂数を適度に増加させ、気候変動や養分欠乏環境下でイネの収量を増加させることが分かりました。世界的に進行する人口増加や気候変動の中で、食料安全保障を実現するための持続可能な食料生産が喫緊の課題となっています。その解決策の1つとして、分げつを制御するMP3遺伝子には大きな可能性があり、今後の活用が期待されます。

詳細については、以下のオープンアクセスの総説で解説されています。

Takai T (2023) Potential of rice tillering for sustainable food production. J Exp Bot erad422, https://doi.org/10.1093/jxb/erad422

 

(参考文献)
Takai T (2023) Potential of rice tillering for sustainable food production. J Exp Bot erad422, https://doi.org/10.1093/jxb/erad422

Takai, T., Taniguchi, Y., Takahashi, M., Nagasaki, H., Yamamoto, E., Hirose, S., Hara, N., Akashi, H., Ito, J., Arai-Sanoh, Y., Hori, K.,Fukuoka, S., Sakai, H., Tokida, T., Usui, Y., Nakamura, H., Kawamura, K., Asai, H., Ishizaki, T., Maruyama, K., Mochida, K., Kobayashi, N., Kondo, M., Tsuji, H., Tsujimoto, Y., Hasegawa, T., Uga, Y. (2023) MORE PANICLES 3, a natural allele of OsTB1/FC1, impacts rice yield in paddy fields at elevated CO2 levels. The Plant Journal, https://doi.org/10.1111/tpj.16143

Ishizaki, T., Ueda, Y., Takai, T., Maruyama, K., Tsujimoto, Y. (2023) In-frame mutation in rice TEOSINTE BRANCHED1 (OsTB1) improves productivity under phosphorus deficiency. Plant Science, https://doi.org/10.1016/j.plantsci.2023.111627

 

(関連するページ)

プレスリリース:高CO2環境でイネを増収させる「コシヒカリ」由来の遺伝子を発見―気候変動下での持続可能な稲作に貢献―https://www.jircas.go.jp/ja/release/2022/press202225

787. ゲノム編集でリン欠乏条件での収量性が向上したイネを作出https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20230530

(文責:生産環境・畜産領域 高井 俊之、食料プログラム 中島 一雄)

 

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