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660. 気候変動「損失と損害」、途上国への「適応・緩和」への投資

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660. 気候変動「損失と損害」、途上国農業分野への「適応・緩和」への投資

今週末の11月6日(日)から11月18日(金)にかけ、エジプト シャルム・エル・シェイクで国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催されています。

COP27に先立ち、Global Center on Adaptationは、アフリカの気候変動への適応に対する現状とトレンドに関する報告書を公表しました。

報告書は、現状のままであれば、2030年までに集まる資金支援は、アフリカが国ごとに決定された貢献(NDC: Nationally Determined Contribution)で言及した額の4分の1以下にも満たない可能性を指摘しました。次の10年間にアフリカが必要な適応ファイナンスの量・質を向上する必要性を提案しています。

アフリカの農業生産性は、気候変動により1961年以来34%低迷していると推計されており、他の地域に比べてより大きい被害を被っています。地球温暖化は、作物の成長周期に影響を及ぼし、水ストレスを悪化させます。エチオピア、スーダン、南スーダンは、気候変動による干ばつ・害虫分布の変化・紛争を起因とする2020年の食料危機から大きく影響を受けました。1.5℃の気温上昇で、東アフリカのコーヒーや茶の生産適地は減少するとされ、2℃の気温上昇はアフリカの殆どの地域で適応策もむなしく、二酸化炭素濃度上昇による潜在的な恩恵を考慮しても、収量低迷をもたらすとされています。3℃の気温上昇では、40℃を超えるような熱波日数の増加により、サブサハラの労働者のキャパシティは30-50%減少すると推定されています。気候変動による気温上昇はまた、家畜生産や漁業生産にも影響を及ぼし、栄養問題を深刻化させる可能性が指摘されています。

 

COP27では、途上国が受ける豪雨や干ばつといった「損失と損害 (loss and damage)」への資金支援が議題になっています。

途上国は温室効果ガスの排出に貢献していないにもかかわらず、気候変動による「損失と損害」を大きく被ります。Natureに寄稿された論説によると、最貧国はアメリカで乗用車と軽トラックが排出する温室効果ガスの半分相当、または世界の温室効果ガス排出の1.1%しか負担していないにもかかわらず、最大の被害を受け、かつ適切に対応する能力を備えていません。論説はまた、富の偏在にも言及し、世界のトップ10%の富裕層が52%の富を占有し、50%の温室効果ガスを排出している一方、世界人口の半数は8%の富しか持たず、10%が温室効果ガスを排出していない、という状況を指摘しています。 

 

途上国における農業の雇用・GDPへの貢献度を考慮すれば、農業セクターの強靭性を強化するための適応政策を主流化することが、持続可能な開発を推進し、富の偏在を解消する手段となりえます。一方、途上国において今後も予測される人口増・経済発展を踏まえれば、先進国だけでなく途上国においてもクライメート・スマートなイノベーションの適用を行うことが国際的に気候変動緩和を達成していくうえで不可欠となります。気候変動議論では先進国と途上国の対立が先鋭化しますが、誰も取り残さない持続的開発を実現するには、農業分野における気候変動適応・緩和イノベーションを推進する国際協力が求められます。

 

(参考文献)
https://gca.org/
https://gca.org/news/an-adaptation-delivery-breakthrough-for-africa-at-…

Global Center on Adaptation.  State and Trends in Adaptation in Africa 2022, https://gca.org/news/new-report-reveals-africa-is-facing-a-crisis-in-fu…

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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