Pick Up

986.気候変動対策は適応策と緩和策を統合すべき

関連プログラム
情報


986.気候変動対策は適応策と緩和策を統合すべき

 

先日紹介したNature Climate Change誌の論稿は、気候変動適応策の緊急性を訴えていましたが、本日は同誌から気候変動対策は適応と緩和を統合すべきだとする論説を紹介します。

緩和策と適応策は、歴史的にも、そしてこれからも、別々に検討される傾向にあります。しかし、既に気候変動が起きている現実を直視し、政策および実行において適応策と緩和策の統合が緊急に必要とされています。

国際・国・地域・ローカルと、それぞれのレベルにおいて、気候アクションはこれまで温室効果ガス排出削減の緩和策の推進が先行し、適応対策は遅れる傾向にありました。しかし、野心的な温室効果ガス排出削減の試みが遅々として進まない中、2023年、とうとう1850-1900年比で1.35℃上昇という史上最高気温を観測、今後も温暖化が減速する兆しは見えません。2050年までにネットゼロを達成しようとする世界的な野心が実現したとしても、異常気象の頻度は増加し、変化する気候への適応の必要性はますます高まります。緩和と適応を分けて検討することは、効果的な気候アクションの推進に逆効果です。

さらに、適応策と緩和策双方の複雑な関係性を鑑みて、それぞれ独立で計画・実行することは、コスト面からも効果的でなく、場合によっては適応不良や意図しない結果をもたらしかねません。例えば、炭素貯留を目的とする植林プロジェクトの実施が、水需要を増加させた場合、降雨パターンの変化や地域の水不足に適応する試みを妨げかねません。同様に、太陽光や海洋風力発電は、生息地の破壊やエコシステムの強靭性の弱体化をもたらす可能性があります。地球温暖化のインパクトに効果的に対応するには、緩和策と適応策を統合させることが必要です。

ただし、適応策と緩和策を同時に検討することは理にかなっているとして、歴史的・制度的に両者を統合するにあたり、様々な課題があったのも事実です。まず、気候変動に関する国際連合枠組み条約(UNFCCC)を見ても、国際的な議論の場では適応に比べ緩和に焦点があてられる傾向がありました。第二に、国レベルのアクションも一貫性を欠いています。イギリスの例では、緩和はエネルギー安全保障・ネットゼロ省、適応は環境・食糧・農村地域省と、管轄が分かれています。このようなケースは地域・ローカルレベルでもあてはまり、同じ行政部署にもかかわらず、適応と緩和が異なるチームに配属され、縦割りで優先順位や資源配分が行われることも多々あるようです。さらに短期間で専門官が異動することが制度的な統合を困難にしています。第三に、国の事情に応じて気候対策の優先順位は異なります。多くの低所得国は温室効果ガス排出水準が低いにもかかわらず、気候変動のインパクトに脆弱です。こうした国にとっては貧困削減・経済発展が喫緊の課題で、そのうえでネットゼロと適合的な適応・気候レジリエンスの強化が求められる一方、高所得国では排出策が基本優先されています。第四に、モニタリング・支援・金融メカニズムの在り方は、緩和と適応で異なります。地域・コンテクストごとに気候インパクトも異なる適応には、緩和のための国際・国レベルの温室効果ガス排出削減目標に相当するようなターゲットはありません。反事実(counterfactual situations: 起こらなかったけれど起こり得たこと)という不確実性への投資が、適応策へのファイナンスを困難にします。

適応・緩和の策定に伴う根本的な複雑さは、課題というよりも、むしろ双方を同時に解決するアプローチを講じる機会として捉えられるべきです。こうしたアプローチは、知識のギャップに向き合い、気候アクションへの縦割り業務を制限し、コベネフィットを最大化し、意図しない結果を最小化することで、気候に強靭な経済成長を可能にします。適応と緩和を統合することで、限られた資源やスキルの配分を最適化して活用し、政策の一貫性を促進し、社会的格差をただし、イノベーションを促進することが可能となり、結果として気候変動インパクトに強靭な低炭素な世界の構築に貢献するでしょう。

 

(参考文献)
Howarth, C., Robinson, E.J.Z. Effective climate action must integrate climate adaptation and mitigation. Nat. Clim. Chang. (2024). https://doi.org/10.1038/s41558-024-01963-x

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

関連するページ