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985. 将来の食料安全保障に向けた気候変動適応の緊急性

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985. 将来の食料安全保障に向けた気候変動適応の緊急性

 

気候変動のもとで異常気象の頻度が増しており、安定的な食料生産をとりまく環境への不確実性が高まっています。

Nature Climate Change誌に掲載された論説は、気候変動の食料生産へのインパクトは我々すべてに影響を及ぼすとし、負の影響を最小化し、最も脆弱な社会層を保護するための研究・研究資金を確保する重要性を訴えました。

多くの人々の生業を支える農業・食料部門は経済的にも重要ですが、食料と気候変動の話題になると、食の選択と環境インパクトに注目が集まることが多いようです。しかし、多くの人々にとり、栄養に富む食を常に十分確保することは決して当たり前ではありません。気候変動は生産に直接的な影響を及ぼすだけでなく、気候変動に直面する生産者の収入減少を通じて、食料安全保障を脅かしかねません。

グローバルな食料貿易の展開により、季節にかかわらず様々な食を入手できるようになり、農業生産が実は自然サイクルに依存し、気象の変化や気候変動にきわめて脆弱であるということを忘れがちです。気候変動がトウモロコシ・コメ・大豆・コムギといった作物収量に及ぼす影響に関するデータはありますが、全ての人々を取り残さない食料安全保障のためにこうした情報を活用していくための努力が必要です。

気候変動が食料生産に及ぼす影響は、極端な気温(高温・低温)、水のアベイラビリティ(過剰・過少)、季節のシフト、といった目に見える現象から、送粉者への影響や魚類・海藻のストックに影響を及ぼしかねない海洋熱波や海流変化といった比較的目に見えない変化もあります。

世界の農業従事者の多くは小規模農家であり、貧しい社会層の出身者も含んでいます。こうした農家の中には、小さな耕地面積にしては高収量を誇り、世界の食料供給に貢献しているケースもありますが、きわめて労働集約的で薄利にあえぎ、気候変動対応に伴うコストによって経営難に陥るケースもあります。最近の研究によると、経営面積が最大10ヘクタールまでの農業・林業従事者は、水のアベイラビリティやタイミング、病害虫の増加など、何らかの形で気候変動の影響を受け、個人の年間所得の20-40%を生産・生業維持のための適応に費やさなければならないと報告されました。こうした食料生産者の世界食料安全保障における貢献を認め、持続的農業を実行するための支援をしていく必要があります。

気温や水のアベイラビリティの変化に対する適応研究、およびイノベーションが求められています。土壌の質といった作物収量に影響を及ぼす様々な要因を明らかにし、栽培慣行を最適化し、品種を改良し、こうした技術の適切な採用を支援する必要があります。気候変動にレジリエントな作物品種を開発して終わりではなく、こうした技術が農家によって受け入れられ実際に採用されるには、改良品種に関する情報の果たす役割も重要です。


(参考文献)
Feeding the future world. Nat. Clim. Chang. 14, 207 (2024). https://doi.org/10.1038/s41558-024-01970-y

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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