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1091. 損失と損害のためのアトリビューション科学
1091. 損失と損害のためのアトリビューション科学
世界中で極端気象が起こる中、とりわけ適応能力の低い途上国が打撃を受けるようになっています。これを受け、損失と損害(Loss and Damage)のための基金を早急に立ち上げる必要性が叫ばれています。
国際レベルでの拠出決定および各国レベルでの投資戦略の決定において、気候科学コミュニティは公正で効果的なエビデンスの提供に果たす役割を期待されています。極端現象と気候変動の因果関係を分析するアトリビューション科学は意思決定に有用な情報を提供しますが、倫理的な問題や不確実性も無視できません。PNAS Nexus誌で公表された論文は、確立されたアトリビューション手法と複数のエビデンスを一貫した論理的フレームワークのもとで統合するビジョンを提案しました。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、最新の評価報告書(AR6)で、「人為的な気候変動はすでにすべての地域の天候と極端な気候に影響を及ぼしている」とし、これが「広範な悪影響と関連する損失と損害」をもたらしていると結論付けています。この評価の背景には、極端現象のインパクトと人為的な気候変動を関連付けるアトリビューション科学の進展があります。実際、ここ数年、パキスタンでの壊滅的な洪水、カナダでの記録的な熱波、欧州と南米での長期にわたる干ばつなど、多くの極端気象が壊滅的な損失と損害をもたらし、そのすべてに明確な気候変動の影響が見出されました。一方、中央アフリカでの極端な降雨や洪水など、データ不足のために気候変動の役割について結論を出すことができないケースもありました。
このような事態が展開する中、COP27(国連気候変動枠組条約締約国会議)は、脆弱な開発途上国が損失と損害(L&D)に対応するのを支援するための基金を設立しました。現在、L&D基金の資金は、開発途上国が直面すると想定される損失をカバーするには著しく不十分ですが、将来的にはより現実的なレベルの資金が約束されることが期待されています。2023年を通じて、基金がどのように機能するか、どのように管理されるべきか、どこに資金を配置すべきかの提案がCOP28で採択され、2024年には基金の運営方法がさらに議論される予定です。
L&Dのアトリビューションは、気象災害よりもむしろ、不確実性を増幅させる地域的な影響にまつわる課題に対応する必要があります。まず、気象的な干ばつインパクトよりも農業的な干ばつといったインパクトに対して定量的な指標を採用する必要があります。インパクトの視点からは、水不足が降雨量不足か蒸発散量の増加によるものかはあまり重要ではありませんが、後者は人為的な温暖化と直接的な因果関係があります。一方、極端現象を扱う気候モデルは、空間的に精密なレベルでの課題を解析するには精度が粗い傾向があり、地域レベルでのインパクトを分析するうえでの不確実性を回避できません。
また非経済的なL&D(トラウマ、強制移住、定住圏・生物多様性・文化遺産の喪失)もまた、ローカルコンテクストに依存し、定量化・貨幣価値に変換することは困難です。極端気象への晒されやすさ・脆弱さの決定要因も複雑で、歴史的に規定されていたり(植民地主義など)、地域のガバナンス構造によっても影響を受けます。ローカルなインパクトの道筋を代表し、現象のインパクトにおける様々な要因の影響を分析するうえで、ローカルなコンテクストに関する知識の重要性は否定できません。
論文著者らは、L&Dの意思決定を支えるアトリビューション科学は、定性的物理学、災害アトリビューション分析のための様々な定量的手法、および極端気象への脆弱性や晒されやすさに関する地域情報を組み込んだ詳細な叙述アプローチの統合を提案します。最も重要な点は、不確実性の問題を追跡可能な方法で対応し、査読に耐えうる方法を用いることです。このようなフレームワークの実現には、世界中の専門機関による分析を統合するだけでなく、途上国の研究者・政策策定者のキャパシティ強化が必要とされます。
(参考文献)
Dim Coumou et al, How can event attribution science underpin financial decisions on Loss and Damage?, PNAS Nexus (2024). https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgae277
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)