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742. IPCC第6次評価統合報告書 ~気候変動という時限爆弾に対する人類のサバイバルガイド~

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742. IPCC第6次評価統合報告書  

~気候変動という時限爆弾に対する人類のサバイバルガイド~

3月20日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動の現状・予測に対し、パリ協定に基づき温暖化を抑制するために必要な対策をまとめた第6次評価統合報告書を公表しました。 本報告書は、IPCC第6次評価報告書サイクルで公表されてきた報告書 -第1作業部会(WG1)- 自然科学的根拠:第2作業部会(WG2)- 影響・適応・脆弱性:第3作業部会(WG3)- 気候変動の緩和 -の知見を統合した報告書で、気候変動の各国の政策や国際交渉を巡る国際世論に大きな影響力を持ち、 グテレス国連事務総長は「気候変動という時限爆弾」に対する「人類のサバイバルガイドa survival guide for humanity」と評しました。

政策決定者向けの要約(SPM)から、要点を紹介します。

 

A. 現状と傾向

人類の活動は、温室効果ガスの排出を通じて地球温暖化を引き起こしていることは疑いの余地がなく、1850-1900年比で2011-2020年の気温は1.1度上昇した。世界的な温室効果ガス排出は、非持続的なエネルギー利用、土地利用・土地利用変化、生活様式及び消費・生産パターンを通じ、史上比類なきレベルで増加し続けている。大気・海洋・生物圏において広範で急激な変化が起こっている。人為的な活動によって引き起こされた気候変動は、地球上の全ての地域における気象や気候の極端現象に影響を及ぼし、自然および人類に対し後半で多大な損失と損害をもたらしている。気候変動の原因に最も縁遠い脆弱なコミュニティが不当なインパクトを被っている。気候変動への適応には進展がみられるものの、気候変動の進行とともに適応のギャップは拡大し、適応不全が起きているセクターや地域もあり、とくに金融支援が十分でない途上国は課題に直面している。2021年10月までに表明された「国が決定する貢献(NDCs)」では、21世紀中に温室効果ガス排出は1.5℃を超える可能性が高く、2℃に抑制するのも困難な状況に陥りかねず、温室効果ガス排出の予測と政策コミットメントの間には大きなギャップがある。

 

B. 長期的な気候変動、リスク、及び応答

温室効果ガスの排出が続くことで、近い将来温暖化は1.5℃に達しかねないと予測される。温暖化が進むごとに災害の強度と頻度は強まる。逆に温室効果ガス排出を本質的かつ迅速および持続的に削減することで、20年内に識別可能な温暖化を抑制し、数年内に大気組成に変化をもたらすことが期待できる。柔軟かつマルチセクターで、包括的かつ長期的な適応策の計画実施により、適応不全を回避し、セクター・システム間でのコベネフィットも期待される。人為的な温暖化を抑制するには、二酸化炭素排出のネットゼロを達成するまでの累積排出量、およびこの10年の温室効果ガス排出削減の水準によって決まる。オーバーシュートなし又は限られたオーバーシュートで温暖化を1.5℃、あるいは2℃に抑制するためのモデルの経路は、この10年間に全セクターで二酸化炭素および非二酸化炭素の双方の温室効果ガス排出の早急な削減を要請する。例えば、オーバーシュートなしで1.5℃に抑制するシナリオでは、世界のメタン排出を、2019年比で2030年までに34[21-57]%削減する必要があるが、農業・航空・運輸・工業過程での温室効果ガス排出の一部は完全除去の困難な残余温室効果ガス排出であり、二酸化炭素除去(CDR)の適用等を通じ、ネットゼロを達成する必要がある。
 

C. 短期的な応答 

気候変動は人類の厚生および地球の健康にとっての脅威であり、持続的な未来を保障する可能性は急激に縮小している。この10年間に本質的かつ迅速および持続的な緩和策と適応策を加速することが人類およびエコシステムへの損失と損害を縮小し、とりわけ大気の質や健康の改善というコベネフィットを達成することも可能である。緩和・適応対策の遅れは高排出インフラの固定化、資産リスクやコスト増大、実現可能性の縮小、そして損失と損害の増加をもたらしかねない。短期的な対策は高い初期投資や破壊的な変化を伴う可能性もあるが、一連の政策にって負担を軽源しうる。本質的で持続的な排出削減と持続的な未来は、全セクター・システムレベルでの急激な移行によってのみ可能であり、こうしたシステム移行には多くの緩和・適応策の展開を伴う。緩和策と適応策は、持続可能な開発目標とのトレードオフに比べてシナジーの方が多いが、シナジーかトレードオフになるかはコンテクスト、および実施のスケールにも依存する。公正・社会正義などを優先することで、気候に強靭な開発を進めることが可能であり、政治コミットメント等が求められる。金融、技術、国際協力が気候アクションの加速にとり重要である。

 

C. 短期的な応答、における、農林水産業に関する部分を以下抜粋します。

農業・林業・その他の土地利用(AFOLU)関連の選択肢は、多くの地域で展開しうる適応・緩和策を提供する。森林やエコシステムの保全・管理改善・回復は、経済的な緩和ポテンシャルで最大のシェアを占め、とりわけ熱帯地域における森林破壊の削減は最大の緩和ポテンシャルを示す。一方、エコシステム保全や植林などは土地利用の競合によりトレードオフをもたらすが、そういったトレードオフの最小化は食料安全保障を含む複数の目的を同時に対応することが必要となる。需要側の対策(健康な食生活へのシフトや食料ロス・廃棄物の削減)や持続的な農業集約化は、エコスステム保全やメタン・亜酸化窒素排出の削減に貢献し、森林やエコシステム回復のための土地確保に繋がる。持続的に調達される農業や森林由来の産品は、より排出集約的な産品を代替しうる。効果的な適応策には、栽培品種の向上、アグロフォレストリー、コミュニティによる適応策、農場・ランドスケープレベルでの多様化、そして都市農業が挙げられる。こうしたAFOLU対応策の実行は生物学的・社会経済的・そのほかの推進策を統合することが必要となる。カーボン豊かなエコシステムの保全(泥炭地、湿地帯、牧草地、マングローブ林、森林)等は迅速に効果をもたらす一方、カーボン豊かなエコシステムを回復するには、結果が出るまでに数十年かかることもありえる。 

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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