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1158. 干ばつの経済学

1158. 干ばつの経済学
土地は生命の基盤です。土地への投資が私たちの生存を保障します。
干ばつは、世界中のすべての大陸、とりわけ乾燥地における社会経済にとって、最も差し迫った脅威の1つです。すでに今日、干ばつは年間18億人以上に影響を及ぼし、特に女性や子供など世界で最も貧しく最も脆弱な人々に打撃を与えています。干ばつや気候変動、生物多様性の喪失などの課題に対処するためのネイチャーベースド・ソリューション(NbS)が注目を集めています。NbSは、干ばつに対するレジリエンスの構築において、自然の回復および保全を目指します。
国連砂漠化対処条約(UNCCD)COP16に合わせて発表された報告書「干ばつの経済学 economics of droughts」は、干ばつ危機削減およびレジリエンス構築のための金融ニーズと機会について検討しています。
2000年から2019年にかけての干ばつによる世界経済の損失は1,280億米ドルと報告されていますが、干ばつの連鎖反応による広範な社会と環境に対する多次元および多面的な影響を考慮に入れていないため、過小評価されています。UNCCDは、干ばつの被害額を年間3,070億米ドルと推定しています。
対照的に、各国が自国の干ばつ計画や関連計画で定めた対策を実施するための推定コストは、2016年から2030年の間に2,100億米ドルと見積もられています。ネイチャーポジティブな経済は、2030年までに年間最大10兆1,000億米ドルのビジネス価値を生み出し、最大3億9,500万人の雇用を創出し、2030年までにネイチャーベースのソリューションへの投資を3倍にすることで、2,000万人の雇用を追加で創出できる可能性があります。
干ばつを引き起こしたり悪化させたりする人間の行為者の役割も非常に過小評価されています。人為的な干ばつ(例えば、生態系の劣化や微気候条件の変化によって引き起こされる干ばつ)に対する認識が高まるにつれ、干ばつの深刻さと影響を軽減するための人間の介入の新たな可能性が生まれています。
NbSが干ばつリスクに対処する機会の面積は、世界で25億ヘクタール以上と推定されており、これは米国、中国、ブラジルの国土面積に相当します。
NbSから干ばつへの対処法は、生態系の水文学的・生態学的機能や土壌の健康を回復させ、水の貯蔵と供給を強化することが中心です。土地が良好な状態に維持されると、食料、繊維、飼料、バイオマスの提供、支援、規制、文化サービス(水供給や炭素隔離など)など、数多くの生態系サービスを生み出すことができます。干ばつに対する多くのNbSは、UNCCDによって持続可能な土地管理慣行として認識されています。
適切に設計され、地域の状況に適応すれば、NbSの大部分は経済的に実行可能です。つまり、全体的なコストと便益を考慮すると、NbSは、通常6年または7年以内に投資1米ドルあたり1.4米ドルから最大27米ドルの経済的および社会的にプラスのリターンをもたらします。
(参考文献)
Thomas, R., Davies, J., King, C., Kruse, J., Schauer, M., Bisom, N., Tsegai, D., Madani, K., 2024. Economics of Drought: Investing in Nature-Based Solutions for Drought Resilience – Proaction Pays. A joint report by UNCCD, ELD Initiative and UNU-INWEH, Bonn, Germany; Toronto, Canada.
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)